モビーに乗って1週間。
なにもすることなく、ただただ過ぎていく日々。
もはやなにをしようとしていたのかも忘れた。
「それはダメだろ」
「ああん、いけずー」
「きもいからこっち見んな」
レシピのようなものを書いていたサッチがちらりと視線だけを上げる。
こっち見るなと言いながら見ているのはサッチだ。
「やだー、誰かと思ったら脳味噌かっすかすなフランスパンじゃないですかー!」
「お前が後から座ってきたんだろ。わざとらしい」
口元に手を当ててわざとらしく高い声で反応すると、サッチは面白いぐらい顔を歪めた。
ここまで露骨に顔に出されるといっそのこと清々しい。
「なんかするために研ぎのバイトしてたのにさ、何の為にしてたのか分からなくなっちゃった」
「なんでそんなキモい声で喋ってんの?耳が腐りそう」
「耳が!腐りそう!そこまで言うか!」
テーブルを指先でつんつんと突っついて女子力アピールをしてみた名無しだったが、サッチの言葉にゲラゲラと笑いながらテーブルの下でサッチの足を蹴った。
「母ちゃんの跡継ぐんじゃねぇの?」
一方的に蹴られていたサッチがテーブルの下で反撃を繰り出し始めて、それに応戦するために名無しの蹴りが激しくなる。
ガタガタと不自然に震えるテーブルに書き物を諦めたらしいサッチは、何食わぬ顔で脛を蹴ってきた。
「継がない継がない!私が継いだらボロクソに文句言われて終わるに決まってんじゃん!」
「真面目にやりゃお前もそこそこの腕してんのに」
「いいのいいの。私なんか研師って柄でもないし、やりたいことが出来たしね」
ガツガツとサッチの足を蹴り返しながら手をヒラヒラと揺らした名無しは、崩れ落ちるようにテーブルに頭をくっ付けた。
「やりたいこと出来たのか」
「知りたい?」
「いや別に」
「なんだよ、知りたいだろ?聞けよ!もっと食いついてこいよ!コミュニケーション能力爆発させちゃおーぜ!」
「やりたいことってなんだよ」
「忘れたー!」
「うをぁ、マジで死んだらいいのにこいつ!」
苛立ったようにテーブルを殴ったサッチに、名無しはグヘヘと変な笑い声を漏らした。
教えてあげないよっ、ジャン!
「あれ?なに悩んでたんだっけな」
「お前、本当に鶏頭だな」
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