「蛇姫様が睨んだって遊びを考えたんだけど」
名無しがそう言った瞬間、サッチとビスタとマルコが席を立ち上がってそそくさと居なくなった。
本当に蜘蛛の子を散らすように居なくなった。
残っているのはエースとラクヨウ、そしてハルタだけ。
さっきまで楽しく団らんしていたとは思えないぐらい静かになった。
「……逃げやがった」
居なくなった3人に舌打ちをした名無しを見て、エースが逃げ遅れたことを後悔しているような口ぶりで呟いた。
「はいはい。それでは勝手にルールの説明を始めたいと思います」
嫌だ嫌だと顔で訴えるエースを無視して手を二回叩くと、条件反射のようにラクヨウが拍手をした。
情けない兄貴の代表格であるラクヨウは、別にノらなくてもいいところにノってしまうタイプで、今も何故拍手をするんだというエースの視線には気がつかない。
そこがラクヨウのいいところでもある。
「蛇姫様が、睨んだ!って言いながら鬼が振り向くわけよ」
テーブルに伏せて見せた名無しは、言葉に合わせて顔を上げて振り返る。
こうするんだと言わんばかりに3人を見ると、ハルタだけ爪を切っていた。文句を言いたかったが、ハルタに一文句を言ったら百は返ってくるので何も言わない。
寧ろ見てなかったことにした。
「振り返った時に土下座してないとその場で蛇姫様キック」
「スゲーハードな遊びなんだけどなにそれ」
「その時蛇姫様役の鬼は『無礼者!』と叫びながら垂直キックを心がけましょう。ここがこの遊びのポイントです」
「どうせ名無しが考えたクソみたいなゲームだろうと思ったけど、凄く楽しそう」
驚愕のルールに目を白黒させるエースとは逆に、ハルタは俄然やる気が出てきたようで、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべた。
ハルタの中では自分が鬼をやることが決定しているのだと思う。
クソみたいなゲームとかそういうマイナスな言葉は聞かなかったことにする。
「垂直キックされずに蛇姫様にタッチ出来たらみんなで蛇姫様を胴上げしながら海に落とす。『蛇姫様静まりたまえ』って言いながらやるのがポイント」
「それ、エース死ぬんじゃないか?」
ふんふんと頷いていたラクヨウがぽつりと呟くと、その場が一瞬静まりかえった。
こっち向いて蛇姫様ゲーム
「まあ、まあまあそれはその時考えればよくね」
「そうだね、とりあえずやってみようよ。楽しそうだし」
「お前ら薄情すぎだろ!」
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