ムスッとしたままお互いそっぽを向く名無しとマルコを見て、ビスタがため息を吐いた。
「どうした。喧嘩でもしたのか?」
無視しようかどうか考えたのだが、周りへの被害がそこそこ出ていたので仕方なく声をかける。
大所帯なので、喧嘩なんて日常茶飯事のことだが、マルコと名無しの喧嘩は周りが被害を被ることが多い。
ムカついて壁に穴を開けるだとか、いきなり互いに攻撃しだして料理をひっくり返したりとか、とにかく周りが困る。
今も二人が喧嘩をしたことによって食堂の空気がひたすら悪い。
「この馬鹿がくだらねェこと言うからだよい」
マルコは忌々しげにそう呟くと、親指で名無しを差す。
それを受けて今度は名無しがマルコを指差す。
「マルコが私の渾身の出来の言葉をくだらないことですませるから悪いんだっつーの!マジないわ!」
「くだらねぇからくだらねぇって言っただけだよい」
「かーっ!!これだからオッサンは!」
冷めた視線を向けるマルコに、名無しは不満げにテーブルをバンバンと両拳で殴り付ける。
ギャーギャーと犬のように吠える名無しと、それを馬鹿にするマルコはだんだんとヒートアップしていく。
少しだけ鎮静化ていた二人の間に油を注いでしまったことに気がついたのは、テーブルがひっくり返ったときだった。
飛んできたテーブルを避けるのは簡単だったが、ヒートアップしていく二人を止めるのは骨が折れそうだ。
「あーあ、なにやってんのビスタってば」
「いや、あまりにも空気が悪かったから心配でな」
どたんばたんと暴れだした二人を遠い目で眺めていたビスタは、隣に座ったハルタの方を見ることなくため息を吐く。
テーブルはどこか飛んでいったので、ハルタは皿を持ったまま肉にかじりついていた。
「放っとけばいいんだよマルコと名無しなんて毎回こんなんじゃん。心配するだけ無駄だよ」
「そうは言ってもだな。お互いこんなに嫌っていては心配にもなる」
背筋をまっすぐに伸ばしていたビスタが少しだけ猫背になりながら考え込むように腕を組む。
それを見たハルタが肉を噛みちぎりながら首をかしげた。
「本心で嫌いならわざわざ隣に座ったりしないって。じゃれあってるだけだよ、アレ」
鳥と馬鹿のじゃれあい
「む。言われてみればそうだな」
「そうそう」
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