モビーに来たのはいいのだが、これからどこを目指せばいいのかわからずに途方に暮れていた名無しに、ハルタがアルバイトを提案してくれた。
ハルタが提案してくれたアルバイトは刀の研ぎだったのだが、その量の半端ないこと。
簡単に言うと提案してくれたと言うより押し付けられた。しかもかなりの安値で。
手に職があれば食いっぱぐれることはないと母親は言っていたが、あれは嘘だと思う。
正確に言うと技術を持ち合わせていても、客との商談能力が長けていないと意味がないと言うことだ。
「まあ、まあまあ!私の特技って言ったら研ぎだけど!研ぎしかないけどさ!!」
一つ一つ刀を確認していく名無しは、乱雑に置かれた大量の刀を見てため息を吐いた。
これをこなしても雀の涙程度しか貰えないとわかっていると、やる気が湧いてこない。
「あの悪魔め!見た目は天使みたいな顔してるくせに!ギャップか?ギャップ萌を狙ってんのか!?」
ぶつぶつと文句を言いながら研げば使えそうな刀を選別していく名無しは、忌々しげに舌打ちをする。
まあ、研ぎと言っても今回の場合は切れ味重視なので荒い砥石でざざっと削るだけだ。本来の鑑賞用だったり名刀を研ぐことを考えれば、仕事は楽だし、仕方ない部分もある。
それでもアルバイト紹介料を引かれたのだけは理解できないし、やるせない。
「お、名無し。なにしてんだ」
「お花でも摘んでるように見えますかこの野郎」
「なんでお前はそう攻撃的なんだよ」
幸せそうな顔で通りかかったエースが妙にムカついて睨み付けると、エースはため息を吐きながらがしがしと頭を掻いた。
「バイトしてんのよ!金が!ないから!」
「貧乏なのか、お前」
「そうですけど!?人生負け組ですけどなんですか!?」
憐れむような視線を向けてくるエースに嫌味ったらしく返すが、そんな嫌味はエースに軽く流された。
幸せなやつは不幸なオーラを寄せ付けないと聞いたことがあるが、どうやら本当らしい。
幸せオーラが眩しくてイライラするぐらいだ。
「愛され末っ子め……地獄に落ちろ!!」
逆恨み
「愛され体質のやつはこの世から消えろ!お前らがいるからモテない私が存在するんだ!」
「俺が消えてもお前はモテないぞ」
「ジーザス!」
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