「キジー!お届け物だよー!」
足でドアを蹴り開けた名無しは、唾液でふやけた煎餅を噛み締めながら部屋の中を覗き込んだ。
「オォー、物騒だねぇ。なにごとだい?」
部屋の中から聞こえてきたのはやる気のない声ではなく、どちらからと言うと気の抜けたような声だ。
「……げ」
「名無しじゃあないのォ、そんなところに居たらぶち抜くよォ」
相変わらず飄々した様子でこちらに人差し指の先を突き付けたのは、少し因縁関係のあるボルサリーノだった。
因果関係と言っても以前ちょっとボルサリーノの食事を盗み食いさせていただいただけだ。それなのにそんな些細なことをずっと根にもってグチグチと文句を言ってくるものだから一回だけパチンコでサングラスを割った。
今となってはどっちを怒っているのかもわからない状態になっている。
「クザンの部屋知らん?どこも似たようなつくりで私には見分けがつかんのだけど」
ドアの隙間から半分だけ顔を出してそう問いかけてみたが、ボルサリーノはまともに取り合う気がないらしく、指先を眩しいぐらいに光らせた。
撃ってこないのは海軍大将としての立場からで、光らせているのは威嚇しているらしい。
「そんな怒んなって!パフェ盗み食いしたの怒ってんの?それともサングラス叩き割ったこと怒ってんの?」
不気味に光る指先にびくびくしながら部屋の中を覗くが、ボルサリーノは許す気配など全く見せないままうっすらと笑みを浮かべた。
「別に〜、怒ってるわけじゃあないよォ〜。そもそも海賊に育てられた時点でわっしには合わないんだよねェ」
「それは私関係なくね!?どう考えても私のせいじゃないよね!」
優雅に首を傾げるボルサリーノは名無しの言葉を右から左に流しながら少し遠くを指差した。
「青雉の部屋なら向こうだよォ」
「結局なに怒ってんの?やっぱ新しかったサングラスを割ったのを怒ってんの?」
「三秒以内に消えないとォ、頭ぶち抜くよォ」
「やっぱ怒ってんじゃん!顔だけおっさんになって脳みそは餓鬼ンちょのまんまなんだから!サルめっ!」
べーっ、と舌を出しておちょくるように揺らすと、綺麗な光が名無しの顔のすぐ横を過ぎていった。
「………」
「次は頭をぶち抜くよォ」
へらっと笑ったボルサリーノに名無しは言葉を失ったままゆっくりとドアを閉めた。
若干穴が開いていて、覗いてみたらやっぱり人差し指の先がこっちを向いていたため、そのままフェードアウトすることにした。
サルとは犬猿の仲
「キジー!てめぇのせいでえれェ目にあったぞバーロー!」
「わしの部屋にノックなしに勝手に入るとはいい度胸じゃァ!そこになおれい!」
「ひぃっ!犬小屋!!」
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