ぐるぐると目を回していた名無しを壁にぶつかる前にキャッチしたのは、宴の片付けをしていたサッチだった。
左手には皿を積み上げていて、空いていた右腕でキャッチしたのはよかったが、ぐえっと蛙が潰れたような声が漏れた。
「また派手にやったな」
「俺は殆どなんもしてねぇよい」
血で赤黒く汚れた名無しの服を見たサッチが呆れたようにマルコを見る。さも興味なさそうな返事をしたマルコだったが、本当はちょっとやり過ぎたと思っているらしい。
バツが悪そうに頭を掻いていた。
「もしかして死んだのか?」
サッチの腕にぶらりと布団のように干されている名無しをつんつんと突っついたエースは、顔を覗き込んでぶっと吹き出した。
どうやら干された名無しは白目を剥いているらしい。女らしさがないのは昔からだ。
「マルコも手加減してやりゃいいのに」
「いいのいいの。こいつがマルコにボコボコにされんのは毎回のことだから」
ずるずると落ちそうになっている名無しを肩に担ぎ直したサッチは呆れたようにため息を吐く。
サッチの言葉にへー、と納得したかのように頷いたエースだったが、実際のところはあまりよくわかっていないらしく目が点になっている。
「ストレスが溜まってんじゃねぇの。こいつが海軍ってこと自体ストレスっぽいし」
邪魔にならないように名無しを端に下ろすと、エースは先程とは違って深く頷いた。
「俺最初会った時、絶対海賊だと思ったんだよ!」
「俺等も最初赤髪のところの下っ端だと思った」
最初にシャンクスと一緒に来たときは行商と言うよりも下っ端が遊びに来たといったような感じだった。
歳もまだ若く、とてもじゃないがブラックスミスとは思えない風貌をしていたのを覚えている。実際まだ見習いだったのだが、神経の図太さや気性の荒らさからしても将来有望な海賊になるもんだと思っていたぐらいだ。
ラクヨウなんて名無しが海軍に入隊したと聞いた晩は嘆きながらひたすら酒を飲んでいた。
その様はさながら娘が嫁にいったかのようだった。
「ま、小遣いをばら蒔く恒例行事みたいなもんだから気にすんな」
「サッチも名無しに賭けたんだな」
「おうよ。もういくら損してんのかわかんねぇぐらいな」
頭の上にお星さま
「因みに名無しが破損物を出した場合全部ラクヨウに請求がいく」
「マジか。ラクヨウ可哀想だな」
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