絶対、泣かす!



最初に会ったときから思っていたが、名無しは馬鹿だ。

馬鹿馬鹿と言われる俺がそう思うのだから、脳みその量的には俺>名無しなのだろうと思う。

そんな馬鹿、いや名無しは今現在売り言葉に買い言葉でマルコの胸ぐらを掴みながらにらみ合いをしている。


酒の席での取っ組み合いなんて酒の肴でしかないので周りはわいわいと騒ぎながら勝ち負けを賭けたり囃し立てたりするだけだ。


「エースは名無しに賭けなよ。賭けるヤツがいないから」

「負けるヤツに賭けるわけねぇじゃん」

「わかんないよ?奇跡的に勝つかもしれないじゃん」


いつの間にか用意した羊皮紙に賭けたヤツの名前と金額を慣れた手付きで書いていくハルタは、名無しの名前の下に並ぶ名前の数の少なさにため息を吐く。
心配するのはそこなのか?とは思うが、ハルタが何でも賭け事にしてしまうのはいつものクセなので敢えて何も言わない。
負ける方に賭けるのは専ら隊長ばかり。寄付みたいなものだ。

それを示すように今回も名無しに賭けているのはほぼ全員が隊長。マルコも勝手に名前を書かれているが、多分何も言わずに払うのだと思う。


「つーか、名無しってなんか悩んでんじゃなかったか?」


ハルタに話しかけた途端いきなり周りが盛り上がりだし、名無しが数人の家族を巻き込みながら勢いよく飛んでいった。
マルコの方を見ると足首辺りから青い炎がちろちろと見える。

わりと手加減なしで蹴ったらしい。

船に亀裂が走るような音が聞こえて、巻き込まれた家族の呻き声のようなものが聞こえた。


「名無しがいちいちそんなこと覚えてるわけないじゃん。今なんか特にマルコ絶対泣かす!みたいなくだらないことしか考えてないよ」


名無しが飛んでいったことなんて全く気にしていないハルタは、戦況なんてどうでもいいのか暢気に札束を数えている。


「思いっきり蹴りやがってこの噴火頭が!テメェ絶対泣かすかんな!!」


ふんがー!と憤りながら体勢を立て直した名無しは、ハルタが予想した通りのことを口にしながら鼻血を服の袖で拭った。

ハルタはほら見ろと言わんばかりに肩を竦めていた。














絶対、泣かす!


「口ばっかりじゃねぇことを祈るよい」

「口も戦闘力の一部じゃい!」



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