「やっぱお前か、名無し。人のこと変な名前で呼びやがって」
すた、と華麗な音を立てて人様の潜水艦に勝手に降り立ったエースは不機嫌そうに眉間にシワを寄せて、テンガロンハットのてっぺんを持って引き上げた。
当たり前のように人様の船に乗り込んでくる辺り、エースも相当鈍い。
こんなことをするから海賊同士のいざこざが減らないのだ。
「呼び寄せたお前が言うな」
「そうだぞ。しかも俺は誰彼構わず喧嘩売るほど短気じゃねぇし」
ジロジロと潜水艦を見たエースは、ハートの海賊団のマークを一瞥してからシャチを見る。
「誰彼とかちょっと難しい言葉を使っちゃうエースくんマジフェアリー」
「おい、ちょっとそいつこっちに寄越せ。一回殴る」
うへへ、と低い笑いを漏らしながら馬鹿にしたような顔で見る名無しに、エースは顔をひきつらせる。その顔は中年親父もビックリするほどだ。
そんな名無しを見たシャチはエースよりも酷い顔をしていた。人のことをそんな顔で見ることができるシャチをある意味尊敬する。
「引き取ってくれるなら今すぐ渡しますよ。返品しないでください」
「なに?お前らはなんでそう人を物扱いすんの?なんなの?これだから海賊は」
「一発殴る間だけでいい」
「だから話を聞け!」
人のことをお互いに押し付け合う姿は既視感が凄い。
どこかに行く度にこんな扱いを受けているような気がしてならない。
「丁度いいや、エースくんちょっと私を連れて行って」
「え?無理」
「本部に帰りたいんだけどこの際どこでもいいから」
「この際どうでもいいから連れて行ってやってくれ」
エース的には不本意な名前で呼ばれた為文句を言うためにわざわざ来たらしい。
シャチも必死でプッシュしているが頑なに首を縦に振らない。
「連れて行ってくれないならエースくんマジフェアリーを宣伝して歩くわ」
「やめろ」
「連れて行ってくれないなら火拳マジフェアリー活動に協力する」
「おいって」
「どこでもいいから連れてって」
強い意思を持って顔を見合わせて頷いたシャチと名無しに、エースは長いため息を吐いた。
返品不可!
「わかったからその呼び方はすんな」
「了解した」
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