野性的な生活をしていると妙に目だけがよくなっていく。
そんな理由で名無しも例外なく目がいい。
「あ、」
拘束されたまま甲板に繋がれていた名無しは、地平線の先の人影に立ち上がった。
一応海軍と言うことで拘束はされているが、ご飯も貰えるし、縄付きなら基本どこでもいける。トイレと風呂に至っては縄をちゃんと解いてくれるというサービスのよさだ。
「あれってまさか……フェアリーじゃね!?」
海の上を不自然に走っているその人影は間違いなく見覚えのある姿で、思わず立ち上がってシャチを振り返った。
「なんだよフェアリーって。頭可笑しくなったのか?」
振り返った名無しを待っていたのは氷河よりも冷たいシャチの視線だった。
フェアリーの名前がよくなかったのか、完全に頭がおかしいヤツを見るような目をしている。
「おまっ、フェアリー知らないの?海賊界のフェアリーエースきゅんだよ?」
「知らねぇよ。そもそも男に興味ねぇし」
「モグリめ!」
ペッ、と唾を吐くような素振りをして見せた名無しは、地平線の彼方に向こうに向かって大きな声で叫んだ。
「エェェェェスきゅーーん!!」
「ばっ、なにしてんだよ!」
嬉しさが滲み出たような声を腹の底から出して叫ぶ名無しに、シャチが慌てて駆け寄って口を塞ぐ。
もがもがともがく名無しだったが、両手が塞がっているのでろくに抵抗も出来ずに後ろに倒れて後頭部をぶつけた。
海軍に入ってからというもの無防備に後ろに倒れることが多くなった気がする。脳細胞が本当に心配だ。
「押し倒すならもっと優しく押し倒しなさいよ!これだからチェリーは!」
「お前っ!他の海賊を呼び寄せるなんてなに考えてんだよっ!」
名無しとシャチしかいない甲板に、悲鳴に似たシャチの怒鳴り声が響く。
胸ぐらを掴まれて怒鳴られた名無しは、きょとんとしてから小さくああ、と頷いた。
「エースきゅんは大丈夫だよ。だってフェアリーだから」
「お前のその根拠のない自信はどこからわいてくんの?」
「なんて言うか……第六感?みたいなやつから」
危機一髪
「このまま海に沈めてやりたい」
「え?このまま嫁にしたい?ごめんなさい」
「……」
prev next
140