「あれ〜?いつもちょこまかしてる馬鹿はどこに置いてきたんだい、青雉」
脱力感のある声に足を止めたクザンは、声の主に確信しながら振り返る。視線の先には予想通り不思議そうに首を傾げたボルサリーノが立っていた。
「名無しちゃんならちょっと迷子だけど……なにか用?」
「オォー、本当かい?馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどまさか迷子になるとはねェ」
少し大げさに肩を竦めたボルサリーノは、唇を尖らせながらポケットに手を突っ込む。
こんなくだらないことで話しかけてくるほど暇を持て余しているとは思えない。ましてやクザンの動向にに関心があるとも到底思えない。
そうなると、クザンの頭を過るボルサリーノの思惑は一つ。
名無しの動向だろう。
何だかんだ言いながら名無しはボルサリーノのところにお茶を飲みに行っていたし、自分専用の珈琲カップをボルサリーノの部屋に置いていたぐらいだ。
動向が気になるぐらいは仲がよかったのだろう。
それに名無しを易々置いてくるなんてあり得ないと思っている。
その迷子の真意を探ろうとしているのだろう。
「本当、奔放すぎて俺も困ってんのよ」
「おやおや、全くそうは見えなかったけどねェ〜」
白々しくそう言葉にするボルサリーノは、表情の機微を見逃すまいと言わんばかりに顔をジロジロと観察する。
あまり観察されるのは好きではないし、同じ大将であるボルサリーノを誤魔化しきれるとは思っていない。
それでも口を割らないのは業務上から教えられないからであり、察してもらうしかないわけだ。
察しのいいボルサリーノのことだから迷子になったから仕方なく置いてきたという情報からもなにかしら感じ取ってはいるのだろう。その違和感をぬぐい去るための言わば答え合わせみたいなものだ。
だからと言ってそう簡単に教えとやるほど若くはないし、仲間だろうがお互い化かし合いはする。
「あらら、アンタこそ名無しちゃんのこと気にかけるほど仲良かったなんて初耳だけど?」
「わっしは基本的に部下思いだからねェ〜」
「それも初耳」
雉と猿の化かし合い
「センゴクさんにバレてもしらないよォ〜」
「さぁ……なんのことだか」
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