重箱のすみをつつく女



名無しが来てから微妙に艦内が綺麗になった。


「通路がちょっと広くなったよな」

「隅にあったはずの埃がなくなった」


別に散らかっていたわけではないのだが、なんかちょっとここの通路広くなったな、とかちょっと埃っぽくなくなったな、ぐらいのレベルだ。綺麗になったと感動するほどでもないし、気を付けていないと見逃す程度だ。


「あいつ変なところばっかり掃除するんだよな」

「溝とか隅とか缶詰の縁とかな」

「そうそう、缶詰の縁なんか綺麗になっててもなんも感動しないんだけど」


航海日誌をつけていたベポの隣でペンギンとシャチが世間話程度に口を開く。
話題のネタになっているのは、変なところばかりを掃除する名無しのこと。

シャワー室にしてもトイレにしても廊下にしても、名無しが掃除した後は微妙なところが微妙に綺麗になっているというなんともくだらない話だ。


「名無しって昔から気になるところだけは綺麗にするタイプだもんね」


航海日誌が一段落したのか、ベポが日誌を閉じて軽く息を吐き出し、過去を思い出すように口を開く。


「ボク昔毛玉むしられたことあるよ」


懐かしいと言わんばかりにそう呟いたベポに、シャチとペンギンは納得いかないような顔でお互い顔を見合わせて首をかしげた。


「それって殺意じゃないのか?」

「毛皮を剥ごうとしたとか」


昔を懐かしんでいたベポだったが、シャチとペンギンの言葉に小さな瞳をぱちくりとさせて二人と同じように小首を傾げてみせた。


「え?じゃあもしかしてボク名無しに嫌われてるってこと?」

「もしかしなくても最初から露骨に怖がってるだろ」

「ホントだよねー!マジやってらんねぇッスよねー!」


ベポがショックを受けて口に手を当ててガクガクしていた隣で、いつの間にか座っていた名無しが激しく頷いて同意した。


「……」

「……」

「なになに?なんの話?メス?もしかしてメスの話ですか?ベポさん」


頬杖をつきながらベポの書いていた航海日誌をぺらぺら捲った名無しは、黙り込んだ三人を後目に期待するように目を輝かせる。


「いいやつなんだか、ただの馬鹿なんだか」

「面白いよね名無しは」



ため息混じりに言ったシャチに、ベポは見当違いなことを呟きながら名無しの肩を軽く叩いた。









重箱のすみをつつく女


「聞いてよ聞いてよ!ローの本の背表紙で『かちぐみしね』って作ったら怒られて左手持っていかれたんだけど!マジウケる!」

「いや、笑い事じゃないだろ」




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