一刀斎と言うのは名無しが愛用していた刀の名前だ。
もともとは母親が愛用していたのだが、家を出る前にお守りとして名無しに譲ってくれた名刀だ。
使いやすく、耐久性の高い刀だったのだが、とある理由で無くしてしまった。
名無しの探している刀の中で一番手に入れたい刀だ。
「お前のことだから野宿でもしてるところを追い剥ぎにやられたんだろ」
ため息を吐きながら名無しを一瞥したローは、本を捲りながらぼそりと呟いた。
ベポと手合わせしようとしていた名無しだったが、一刀斎のことを突っ込まれたせいで心が折れて、甲板の隅でいじけている。
「いくら私でもそんなに鈍くないし!」
うじうじと床にのの字を書いていた名無しは、ローの言葉に強く反発する。
「じゃあなんで無くしちゃったの?」
「知らん!もう忘れた!過去をほじくられてもう死にたい」
ベポの追及にううっと嘘泣きをした名無しは膝を抱えるように三角座りをして、顔を膝に埋めた。
「役に立たない脳味噌だな。全部取り除いてやろうか」
「慰めろよ!!」
落ち込んだように俯く名無しに冷めた顔で追い討ちをかけるローは、一刀斎の価値をよく知っているのだろう。
少しでも刀に興味がある人間ならば誰しも名無しの間抜けな行動に眉を顰める。
「やっぱ北出身のヤツは心も冷たいんですね!!覚えてろこの冷徹外科医!もうあることないこと言いふらしてやるからな!」
「……ジョーカーには聞いたのか」
「夏島でも長袖着てる変態だとか!ふわふわに目がないゆるふわ男子だとか!帽子の中は蒸れて禿げてるとか!」
「おい」
「ハートの海賊団の裏ボスはベポ…へぶっ!!」
ローの言葉を再三無視した名無しの脇腹には鞘がついた鬼哭が突き刺さる。
「ちょっ……あかん……医者が脇腹突いたらあかん!」
「お前が人の話を聞かないからだろうが」
脇腹を押さえながら蹲る名無しに、ローは見下すように上から名無しを見下ろす。
その居丈高な態度はルーキーのものとは思えない。
四皇ですらこんなにふんぞり返っていない気がする。
「キャプテン、カッコイイ」
ベポが空気を読まずに後ろで乙女発言をしていた。
三歩前は過去
「なんだろう、この話が噛み合わない感じ!」
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