カモメだかニュース・クーだか知らないが、青い空を鳥が突っ切っていく。その度に影がちらちらと落ちてくる。
「あー…、気持ちいいわー」
海の上に顔を出した潜水艦の甲板に寝転がった名無しは酸素を吸い込めるだけ吸い込むために大きく肺を膨らませる。
潜水艦の中も思った以上に広いが、やはり普通の軍艦よりも息苦しさがある。
ずっと閉め切られた空間にいたせいか高い空を見るととてつもない解放感を感じる。
「と、言うわけで、ちょっと白黒付けようかクマ吉」
大の字に寝転がっていた名無しはぴょんっと飛び起きて目の前にいたベポを挑発するように手首をクイックイッと動かした。
「またするの?でも名無しボクに触れないから意味ないと思うんだけど」
「艦内は狭かったから刀抜けなかったからだめだったけど、外なら大丈夫だし!さぁ!さぁ来い!」
喋る生き物が大の苦手な名無しはそれを克服するために、航海中常にベポに挑んでいた。
しかし、あの人間にはあり得ないふわっとした毛皮の感触が無理で喧嘩を売っては艦内を逃げ回る日々が続いている。
今日こそ、と意気込む名無しを見てベポは困ったように肩を落として、読書に勤しむローの方に視線を流す。
「キャプテン……」
止めて欲しくてなのか、背中を押して欲しくてなのかはよくわからないそのベポの反応に、ローは表情を全く変えないまま軽く頷いて言った。
「どうせ暇なんだ。相手してやれ。有料でなら治してやらんこともない」
「えーっ、キャプテーン!酷いや!ボクからもお金とるの!?」
「当たり前だ」
ブーイング混じりに文句を垂れていたベポだったが、名無しが抜刀した瞬間に目を光らせた。
野性的な勘に戦闘本能が擽られるのか、きりっとした表情はいつもの情けない表情からは想像出来ない。
「あれ、名無し。一刀斎無くしちゃったの?」
「ぎくっ!」
触発状態だった二人の空気が、ベポの一言で完全に崩れ落ちる。
わざとらしい名無しの驚き方にローも本から視線を上げて、握っている刀を一瞥した。
「気がついて欲しくないところに気がついて指摘する野郎ってのはモテないんだぞ!これだからクマは!」
「クマですみません……」
一刀斎
「一刀斎を無くしただと……?お前、どういう神経してるんだ」
「わりとポジティブに生きてます」
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