「あっついなクソッタレ!」
じわじわと滲み出てくる汗に苛立った名無しは発散するように壁を思い切り殴り付けた。
パウリーに借りたTシャツと、海軍で支給された紺のパンツというこれ以上脱ぎようのない限界の格好なのだが、蒸し暑い艦内には耐えられない。
いつも機械を冷やすためにクーラーがガンガンきかせているのだが、それでも暑い。
今日は何故かしらないがクーラーがついていない。
艦内はサウナみたいな状態で、汗がぼたぼた落ちてきて既に枯れそうだ。
この状況に耐えられるのは心までパサパサに乾ききったクロコダイルぐらいのものだろう。
「あ"づい"よー」
うちわで扇いでみても、流れてくる風は熱風。機械からあがる熱が死ぬほど憎らしくて破壊したくなる。
「無駄に動くから暑いんだ。無駄口を叩くのをやめてちょっとは大人しくしてろ」
「お言葉ですがトラちん。私実は口を閉じたら窒息死してしまう病気なの」
暑い暑いと文句をこぼしながらバタバタと動き回る名無しとは違い、ローは長袖を着ているくせに涼しげだ。
エアーホースでも繋げているんじゃないかとボディチェックしたがそんなものは一切見当たらなかった。
「前例がない病気だな。今すぐ死んでみろ」
「実験動物を見るような目で見ないでください。訴えますよ」
常にどうでもよさそうな顔しかしていないローが、目を輝かせながら興味津々に名無しを見る。
純粋に医者としての興味から病気という言葉に反応したらしいが、今すぐ死ねと言い放つ辺り医者としてどうなのか。
「それにしてもあつい……なんでトラちんはそんなに涼しそうなの?教えてトラちん!」
「……涼しくしてやろうか」
病気の話題からずらされてしまい少し不機嫌になったローの眉間には少しシワが寄っている。
それでも話題を振ってきたローはどこか楽しそうでもある。
「なになに?涼しくできんの?もう私暑くて死にそう」
身を乗り出して顔を覗き込む名無しに、ローは読んでいた本を閉じて短くため息を吐いた。
そしてどこからともなく綺麗に磨かれたメスを取り出す。
医療用メスは名無しの専門外だが、丁寧に研がれているのがよくわかる。
「この切れ味なら麻酔なしでも痛みを感じない。これでまず……」
「あっ、もう十分でーす」
体温急低下
「盛り上がるのは今からだろ」
「その話題で盛り上がるのはトラちんだけだよ」
prev next
133