ごうんごうんと鈍い機械音が響く艦内は、息苦しさを感じる。
普通の船とは違い暑い上に空気も悪い。
乗り慣れていないというのもあるのだろうが、この独特な暑苦しさはそう簡単に拭えるものでもないだろう。
部屋はだいぶ綺麗にされているが、通路には予備の部品やら食料の缶詰等が詰め込まれおり、やたら狭いし埃も目立つ。
唯一綺麗なところと言えば、ローの部屋と近寄りたくない手術室ぐらいなものだ。
潜水艦に何故手術室があるか、そんなことは疑問に思ってはいけない。
世の中には知らないでいたほうがいいこともある。
ベポに進路の事を遠巻きに聞きに行こうとしていた名無しは、たまたま通りかかった通路を見つめ、無意識にたわしと雑巾を持っていた。これはもう性格なのだろう。
断じて綺麗好きというわけではない。
眠たければ当たり前みたいに地面に寝ることも戸惑うことはないし、汚れたからといっていちいち気にすることもない。
ただ一度でも目についてしまうとダメだ。
気になって気になって仕方がなくなってどんなに急いでいても大切な用事があっても、気がするまで綺麗にしなくては気が済まない。
「缶詰の溝に埃が!!」
床掃除をちゃっちゃと始めた名無しの目に、積み上げてあった缶詰が目に入る。
自分の性格がわかりきっている名無しは、埃が詰まった缶詰から思いきり目を反らしたのだが、ばっちり見てしまった後では遅すぎた。
「く……っ!手が勝手に!」
雑巾を放置して缶詰に手を伸ばした名無しは、ポケットから綿棒を取り出して缶の溝に詰まった埃を拭き取る。
なんでポケットに綿棒が入っているかは秘密だ。
確かどこかの美女が女はちょっとミステリアスな方がモテると言っていた。
「ふ、ぐふふふっ!快感!!」
溝から面白い程に埃が取れて、そのえもいわれぬ感触にぞくぞくと背中が震えて、奇妙な笑い声を上げる。
汚かったものがすっきり綺麗になるのはどんな言葉にも表しようがないほど気持ちがいい。
傍から見たらただの変態にしか見えないが、性癖みたいなものだからそう簡単には止められない。
気がついたら丸一日過ぎていた。
ただし、自分が気になったものに限る
「うっ!お腹が空いて力が、でない……」
「馬鹿だろ、あいつ」
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