水の都も夕日に照らされて幻想的な風景に変わる。
水がオレンジ色に染まり、キラキラと反射していて観光名所になるだけはあると感じた。
海列車の汽笛が遠くの方で聞こえて物悲しさがある。
「まさかのおいてけぼりか」
終業時間になり、あちらこちらから聞こえていた槌やノコの音が止んだ。
それなのにクザンは相変わらず現れない。
パラパラと従業員が帰っていく中、1番ドックに立ち尽くしていた名無しをパウリーが見つけて目を細めた。
「……ドンマイ」
「やめろやめろ!同情するような顔はやめろ!別に悲しくねぇし!肩を叩くな!」
ぽん、と慰めるように肩を軽く叩くパウリーの手を全力で振り払った名無しは、地団太を踏みながら威嚇するように手を振り上げた。
負け惜しみではなく本当に悲しくもなければ悔しくもないのだが、いかんせん帰り方がわからない。
クザンのようにお手軽に海の上を自転車で走れたり、レイリーのように海を当たり前のように泳げればいいのだが、船すら持ってない名無しにはなんの手だてもない。
「まあ、とりあえず暇だし帰るわ」
「お前、今自分一人で帰れないって結論に到ってなかったか?」
「そうだっけ?過去のことは忘れる主義だから」
ない頭を使って悩んでいても一生動けずに終わってしまう。それならとりあえずなんの案もなくても動いた方がマシ。出たとこ勝負ならもう慣れっこだ。
「とりあえず知り合いを探す!」
「知り合いなんかそう都合よくここにいんのか?」
「いなかったら知り合いを作ればいいじゃない!」
「そうだな、お前なら出来る。知らねぇけど」
「そうだろうそうだろう!私に出来ないことはないからな!」
呆れ半分、安堵半分と言ったような顔で相槌を打つパウリーに、名無しは力強く頷いて拳を握り締めた。
出たとこ勝負であまりいい結果になったことはないが、人生はそんなもんだと諦めているので大丈夫だろう。
「よし、じゃあパウパウ服貸せ!海軍の制服だと敬遠されっから」
「は?お前、海軍……?海賊だと思ってたぞ」
「よく言われます!見た目は海賊!心は海軍!真実は正義とは限らない!」
「あ、はい」
どや顔で親指を立ててポーズを取る名無しに、パウリーはなぜか敬語でよそよそしく返事をした。
人は見た目である
「ごめんって!心は海軍とか嘘ついてごめんって!本当は心は妖精だよ!てへぺろーな☆」
「もうお前このままエニエス・ロビーに行ったらいいんじゃねぇの?」
「そんなに!?」
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