「へっ、へ…ブクショナリーっ!!」
ブー、と勢いよく飛んだ唾を目の前に座っていたカクは素早く避けた。
「汚ェ…しかもおっさんくせぇクシャミすんな」
被害を受けたわけではないパウリーだが、気持ち的に避けてしまったらしく少し身体が傾いている。
ずずっと鼻を啜りながらサンドイッチを頬張る名無しはたいして気にしていないらしく、ティッシュで鼻を拭った。
「クシャミにおっさんも美女もないわ。お前の大好きなセクハラちゃんも今頃盛大にクシャミしてっから」
もしゃもしゃとサンドイッチを頬張る名無しは、ふんだんに入ったレタスに苦戦しながら無理矢理口の中に詰め込んでいく。
ルッチのサンドイッチをくすねたのはよかったが、ベジタリアンなのかなんなのか知らないが野菜しか入っていない。
「そのサンドイッチは俺のだっポー」
「ハットリのか。やけに野菜野菜してると思ったんだよ」
少しムッとしたように羽を広げてばさばさと一生懸命返せとアピールするハットリだが、別にハットリのサンドイッチだろうが大して気にしないので返す気は更々ない。
鳩が食べられるのに人間が食べられない物はないと言うのが名無しの持論だ。いやもう座右の銘にしてもいい。
「安い座右の銘だな」
「私の心の声を聞くのは止めろ」
「じゃあもうちょっと伏せろ。喧しい造船工場の中ではっきり聞こえる心の声は異常だぞ」
「特別な存在か?もしかして私は特別な存在なのか?」
「鳩のエサを取るぐらいだからのう」
すましたような顔のカクは相変わらずどうでもいいようで、名無しの目の前から少しずれて平和そうに弁当を食べている。
「それよりも名無しはさっきからなにを読んどるんじゃ」
ブックカバーで目隠しをした本を片手に野菜サンドイッチを食べていた名無しは、少し考えてから長く息を吐いた。
「猿でもわかるコミュニケーション講座」
「お、おう」
読んでいる本があまりにも意外すぎたのかパウリーが気を使ったような微妙な返事をする。
聞いてきた本人であるカクはコメントに困ったのか聞かなかったことにしてまた弁当を食べ始めた。
「猿でもわかるはずなのに何故かさっぱりわからないんだよね」
職場でのお悩み
「いや、そもそも猿が文字を読めるのかって話だよ!問題はそこからだ!」
「問題は間違いなくお前のその足りない頭だっポー」
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