「お前の馬鹿さ加減には呆れるポー」
「お前に言われたらおしまいだニー!」
造船工場に着いても尚ルッチと名無しの言い合いは終わるわけはなく、ずかずかと早足で歩きながら1番ドックに向かう。
目的地が同じだから、はいさようならと言うわけにもいかず、語尾のおかしな言い合いを続けながら歩く二人を街の人は不思議そうな顔で振り返る。
名無しに至ってはもうヤガラがいないのでただの語尾が変な痛い女だ。だが、名無しは気がついていないのか未だにヤガラの真似を止める気配がない。
ルッチもルッチで突っ込むのが面倒なのか特にそのことに触れようとはしない。
「おう盗人娘、久しぶりじゃねぇか」
「うっさいわ!盗人娘って言うな!」
1番ドックに当たり前のように入っていく名無しを咎めようとする者はおらず、馬鹿にするようなからかうような言葉が飛び交う。
何度も侵入してボコボコにされていたものだから、最終的には入口付近で仕事をしている職人からは相手にされなくなり、応援されたりなんかしていた。
どうせパウリーやルル、ルッチやカクなんかには勝てないと思われていたのだ。負けず嫌いの名無しからすればこんな屈辱的な応援はない。
所詮盗人の立場なのであまり大きな声では言えないが。
「なんじゃ、どこに行ったかと思えば名無しが来ておったのか」
ガチャガチャと腰につけた工具を鳴らしながらいつの間にか隣を歩いていたカクは、この間の黒ずくめの格好ではなく、わりと明るめの作業服を着ていた。
音もなく現れるのは相変わらずだが、名無しの知り合いは基本的にどこから現れたのかさっぱらわからないぐらい気配がないやつの方が多いのでいちいち驚かなくなってしまった。
「カク、パウリーどこ?私のパウパウどこ?」
「パウリーはいつからお前のものになったんじゃ?とうとう借金のかたにでもなったのか」
ケラケラと楽しそうに笑うカクは、パウリーが借金のカタになろうがどうでもいいのが丸分かりだ。外見からして優しそうに見えるがわりと他人には興味がなく、全てを許容しているように見せているだけ。
ある意味クザンなんかよりもずっと冷たい。
「酷い言い様じゃのう」
「まあ、私的には凄くどうでもいいんだけどね」
鳩とキリンのシャレード
「あ、私のパウパーウ!」
「げっ!!」
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