1番ドック行き



ぶつぶつとルッチの腹話術について文句を言っていた名無しだったが、憎きルッチに水水肉を買って貰い渋々だが口を閉じた。

本当は文句を垂れ流したいところだが、嫌味を言い続けるよりも肉を食べていた方が幸せになれるし、何より奢りだ。
怒りすらも収めてしまうタダとはなによりも強いと思う。


タダより高いものはないと言うが、それは金持ちの言い分である。今にも死にそうな貧乏人ならばタダで食べ物が貰えるならなんでもする。


「いつからだ」

「は?」


ブルに乗りながら黙って水水肉を頬張っていた名無しはいつもよりも低い声に裏返りそうな声を飲み込んだ。
慌てて声の方向を見ると、ルッチが不愉快そうに眉を歪めていた。


「いつから海軍にいるんだ、と聞いているんだ。さっさと答えろ」

「え?ちょっ、腹話術どうした!?」


さっきまで頑なに鳩に喋らせていたくせに、ヤガラに乗った途端普通に喋りだして驚きすぎて口から水水肉の食べかけが飛び出してしまった。


「質問には簡潔に素早く答えろ」

「しかもちょっと声違うし!やっぱり鳩に地声で喋らせるのは抵抗あったの?ねぇねぇ!」

「……」


くくっと込み上げてくる笑いを押さえながら立っているルッチの足をつんつんと肘で突っつく。
しつこく食い下がっていたら橋の下の死角に入り込んだ途端思いきり殴られた。
死角に入り込んだ時に殴ると言うのがルッチらしく何とも嫌らしい。


名無しから見ればただの理不尽な暴力鳩男だが、街の人から見ればガレーラカンパニーを担う船大工の一人。そして信じられないことに女性支持が凄い。
鳩なのに。


「鳩なのに」


我慢できなくなってもう一度口に出したが、理不尽さは払拭しきれるものではない。


「俺の質問に答える気はないのか?この役立たずのクズめ」

「おいおい!全くの赤の他人である私にそこまで罵倒出来るお前は一体何様なんだ!?鳩のくせに!」


吐き捨てるように言い放ったルッチは、水門エレベーターに差し掛かったせいかまた口を噤んだ。
あくまでも他の人がいる前では鳩に喋らせる気らしい。


エレベーターガールが軽快なトークと共に水門を閉じると、大量の水が流れ込んでくるような音がし出す。
いつ見ても水を利用したエレベーターと言うものは不思議なものだ。


「お前の脳みそじゃ理解できる構造じゃないからな」

「鳩、随分偉そうに話すな」

「ポー」


無理矢理語尾に付けられた鳩語にはちょっと無理があった。










1番ドック行き

「お前がその気ならこっちはヤガラに喋らせてやるニー」




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