パウリーに遊んでもらおうと付きまとっていたのだが、思っていた以上にすばしっこく、路地裏で逃げられてしまった。
「くそー…、久しぶりに構ってくれるやつに会ったのにっ」
日頃からスルースキルのあるおっさんばかりがいるので、たまにパウリーみたいなやつにあうと付きまといたくなる。
そして逃げられると追いかけたくなるというのが本能というもの。
名無しはこれを鰐を見かけたらとりあえず口に手を突っ込んでみる法則と名付けている。
名前のもとになったのはツンデレ代表とも言えるクロコダイルで、あまりに構いすぎて肋骨を折られたこともあるが、未だ後悔も反省もしていない。
「パウパーウ。どこ行ったー?」
おーい、と声を掛けながら路地裏を見て回ると、水路をヤガラに乗って逃げるパウリーと目が合う。確かに目が合った筈だが速攻で反らされて見なかったことにされてしまった。
「どうせ仕事場に帰るんだろ馬鹿め。私には全てお見通しだ!」
金も持っていないし、今日は休日でもない。パウリーのことだから仕事中にサボってレースを見に来ていたに違いない。
追いかけようとした瞬間、なにも無かったはずの目の前にいきなり人が現れて、低い鼻を強打した。
「くそっ、テメェどこ見てんだボケ!」
「……相変わらず注意力が足りんヤツだ、ポー」
つーんと走る痛みに鼻を押さえていた名無しは聞きなれた声に嫌そうに顔を上げる。
そこにいたのはランニングにシルクハット、肩には鳩を乗せた奇妙な出で立ちの男がすました顔で道を塞ぐようにして立っていた。
「出たなルッチ……!貴様どれだけ私の邪魔をすれば気が済むんだ!」
「お前こそその単細胞の頭をなんとかしろっポー」
ルッチの肩に乗っている真っ白な鳩が、いかにも自分が喋ってますと言わんばかりに羽を広げながら嘴をちまちま動かすが、驚くなかれ、実はこれはルッチの腹話術なのだ。
これに気がつくまでに名無しは結構かかったが、よく考えたら鳩が喋るはずがない。
「アンタ、いい歳して鳩に喋らせて恥ずかしくないの?夢見るのもいい加減にしなさいよ」
「余計なお世話だポっポー」
頑なに鳩に喋らせているルッチは自分は全く関係ありませんと言わんばかりの顔をしている。
おっさんがポッポーなんて若気の至りでは済みそうにない。
代弁する鳩
「そのうち焼き鳥にしてやるからなハットリ」
「お前には無理だポー」
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