紙吹雪のように投票券が空を舞う。
悔しそうに響く男達の舌打ちや恨み言は、賭博場では極々当たり前の風景だ。
「名無しちゃん凄いね」
「うん?私わりとヤガラレースとは相性いいんだ、昔から」
クザンに借りたお金で一匹に突っ込んで賭けた名無しは、見事一着を当て1.5倍の配当金を手にしていた。
もともと人気のあるヤガラだったため配当金は少なかったが、ギャンブルは地道に勝つことが大切だと名無しは常々思っている。
「名無しちゃんのことだから突っ込んでおじゃんになって泣きわめいてもっと貸してって言ってくるかと思ったのに」
「お前、人をなんだと思ってるんだ?こちとら遊びでやってんじゃねぇんだよ!!」
「名無しちゃんって追い込まれてるときの必死な顔が一番いい表情してるよね」
「おい、なんの話だ」
元金にした金をクザンに返して、新たに儲け分を次のレースのヤガラに賭ける。
2番人気と4番人気で悩んだが、調子からして4番が来ると読んだ。
「2番に全財産賭けるぜ!」
投票券を買おうと窓口に近づいた瞬間、名無しの意見と正反対のことを言う男が隣で全財産と呼ぶには少な目の金を窓口のお姉さんに渡していた。
絶対に2番は失速する。
それなのに全財産突っ込むなんて相当馬鹿だ。
「なんだとテメェ!人の買うもんに文句つけんじゃねぇよ!」
「失礼、心の声が」
「あァ?テメェ…」
「あ、どこの馬鹿……いや誰かと思ったらガレーラカンパニーのパウパウじゃん」
4番の投票券を受け取りながら軽く舌打ちをすると、パウリーが不愉快そうに眉を歪めた。
「人を犬みたいな名前で呼ぶな盗人女」
「そっちこそ人を盗人みたいに呼ばないでよね!」
「盗人じゃねぇか」
「確かに私は盗みに入った!盗人で違いない!」
葉巻をくわえたまま顔を歪めるパウリーは、ちらりとクザンの方に視線を上げた。
「おっとパウパウ、あんまりコイツをガン見しないほうがいいぞ」
「チャウチャウみたいな呼び方するんじゃねぇよ」
呼び方を露骨に嫌がってるパウリーを無視し、クザンを指差した名無しは中指を挑発するように立てて言い切った。
「コイツは歩くジャックナイフ!気安く触れると毛が縮れるぜ!」
いかにも効果音がついてきそうな勢いで言い放った名無しだったが、ジャックナイフと呼ばれたクザンはどうでも良さそうな顔をしていたので、パウリーもたいして反応しなかった。
今のカット!
「ダメだ!お前らなんもわかっちゃいねぇ!」
「俺は後ろのアンタが不憫でなんねぇ」
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