水の流れる音が印象的なその島には、数十回訪れたことがあるがいい思い出というのが一つもない。
と言うのはこの島を束ねるガレーラカンパニーに目をつけられているからである。
昔、刀を造るためにどうしても必要な材料があり、それがウォーターセブンにしかなかった。
初めはきちんとお願いしたのだが、譲ってくれなかったため強行手段に出た。
「こっそり盗んだの?」
「馬鹿言うな!そんな卑怯なことはせんわ!ちゃんと正面突破して強奪しようとした!」
「こっそり盗んだ方が恨みを買わなかったんじゃあないの」
「それに気がついたのは3回目の正面突破の後だ!」
正面突破を試みたのはよかったのだが、実際お目当ての物は手に入ることはなかった。
理由は勿論ガレーラカンパニーの船大工共に負けたからだ。
ある程度の雑魚には勝てたのだが、パウリーやルル相手に足止めをくらってルッチにトドメを刺されるパターンが殆どだった。ルッチは女だろうが容赦がなく、本当に言葉通りボコボコにされたのはまだ記憶に新しい。
「今思えば偉い人に頼めば一発だったんだ」
「ガレーラカンパニーの偉い人って言ったら市長じゃないの。名無しちゃん知り合い?」
「いや知り合いじゃないけど!知り合いじゃないなら知り合いになればいいじゃない!」
「あー……、そうだね」
「半殺しにされるよりもそっちの方がリスクが低いことに気がついた私は大人の階段を登りましたとさ。チャンチャン」
「めでたしめでたし」
「喧しい」
すいすいと縦横無尽に泳ぎ回るヤガラを横目に、気持ち程度の道を歩く。
流石に水路を凍らせて自転車を走らせるわけにはいかず、青チャリは路地裏にお留守番だ。
「そう言えばクザン」
ふ、と思い出したように名無しが口を開いてクザンを見上げる。相変わらず無駄に身長が高くて首が痛くなる。
「あの偉そうコートはどうしたの?」
「偉そうコートって言わないでよ。一応海兵にとっては憧れでもあるんだよ」
「わかるわかるーよく燃えそうだよね。野宿の時に役立ちそう」
どうでもよさそうに店を眺めながら呟く名無しの脳裏には、その憧れのコートを引きちぎって部下の手当てをするというTボーン大佐の不気味な笑顔が張り付いていた。
現在休暇中
「給料さえあればヤガラレースにぶっ込んでたのになー」
「貸してあげようか?」
prev next
115