そのままの君でいて


ただひたすらに広い海。
何処までも広がる海に点々と反り立つ氷のオブジェは、やや不気味だ。


「何て言うか……ここまで無敵だと人生楽しくてしゃーないでしょ」

「そんなことはないけどね。そこそこ助かってはいるよ」


ちりーん、ともの寂しげに響く自転車のベルの音を聞きながら海のど真ん中で凍りついた海王類を見上げる。

ウォーターセブンへの道中、海王類の巣窟を自転車で突っ切ってしまったらしく、次から次へと海王類が出てきてしまった。それをクザンが片っ端から凍らせてしまったので一面寒々しい風景になってしまったのだ。


船が通るときどうするのかが不思議だが、ぶっちゃけあまり関係ないのでそんなに興味もない。


「いいよねー、悪魔の実ってある意味博打だけど」

「図鑑が存在するからそこまで賭けでもないんだけどね」

「チョンボか」

「チョンボなの?」


興味無さそうな返事をするクザンは名無しなんかよりもずっとこの風景には興味ないのだろう。寧ろ海賊船が沈めば儲けもの、ぐらいにしか考えていない感じがする。
いや、そんなことすら考えていないかもしれない。


「もうちょっと分かりやすく生きたらいいのに。私みたいに」

「名無しちゃんみたいに駄々漏れで生きるほうが難しいと思うけどね」

「簡単だよ、心を開け放つんだ!こう…がばって感じ?」

「あー……そうなんだ」

「そのどうでもよさそうな返事!もっと熱くなれよ!!」


話の途中から完全に乗ってくることを諦めたクザンに、名無しはガツガツと自転車のタイヤを蹴って反発する。


「面白くないヤツだな」


グラグラと不安定に揺れる自転車の後ろに乗ったまま口を尖らせた名無しは、頭をクザンの背中に預けた。


「オジサンに面白さを求めるのは酷じゃあねぇのかな」

「諦めたらそこで試合終了だよ?私なんか多分一生このテンションだよ?可哀想だろ」

「名無しちゃんが一生そのテンションなら俺がこのくらいの方が丁度いいんじゃないの?」


クザンの言葉に少し考えるように言葉を詰まらせた名無しは、自分のテンションを省みて一度頷いた。


「クザンはそのままがいいよ」











そのままの君でいて

「面白くないって言ってごめんね!やっぱ時代は落ち着きだよね」

「わかってくれたみたいでなにより」



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