「ウォーターセブンに行くの?なんでウォーターセブン?意味わかんないから理由を3文字以内にお願い」
「仕事」
「なるほどね、そういう感じね。はいはい」
突然自転車の後ろに乗ることを命令されて反論した名無しだったが、ごく普通の正論で論破されて軽く頷いた。
「だが断る!!」
無理!と突っぱねた名無しは、あり得ない程のスピードで首を振った。
ウォーターセブンは世界一の腕を持つと言われている船大工が市長を勤めており、造船が盛んな島である。
一方水の都と呼ばれ、水に囲まれた街の美しさは定評があり、観光業も盛んだ。
本来なら仕事でいけることを喜ぶところなのだが、ウォーターセブンには名無しの天敵が存在している。
それはもう口に出すのもおぞましい奴だ。
「どうしても嫌?」
「どうしても!仕事であろうがウォーターセブンには行きたくない!」
「じゃあ減給ね」
「行きます」
減給の二文字に名無しは先程までの意見をあっさりと翻して即答した。
名無しの給料はただでさえ壊した備品などの損害で天引きされ過ぎて赤字ギリギリなのに、減給されたら赤字確定だ。
例えウォーターセブンに天敵がいようとも減給だけは避けなければいけない。
「いやー、名無しちゃんならそう言ってくれると思ってたよ」
よかったよかったとどうでも良さそうに喜びのコメントを棒読みしたクザンには殺意を感じながらも青チャリの後ろに足をかけて飛び乗った。
「わざとらしい……私の給料明細もどうせ把握済みなんだろ!」
「あらら、俺はプライバシーは大切にする人間よ?」
「じゃあ見てないのか?絶対見てないんだな!?」
「あれだ。まぁ……もうその話はいいじゃない」
チリリン、と出発の合図に自転車のベルを鳴らしたクザンは、誤魔化すにも誤魔化しきれていない返事をする。
誤魔化すならもう少し誤魔化せばいいのに、誤魔化すのも面倒なのだろう。
「高給取りなのに何故クザンがモテないのかよくわかるよね」
「あらら」
「もはや自分のことですら他人事です。本当にありがとうございました」
大将、独身。
「あれ?どこ行くんだっけ?」
「ウォーターセブンだよ、名無しちゃんの天敵がいるっていう」
「はっ!!」
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