ヒタヒタと足音を殺して歩くコビーとヘルメッポと名無しは目撃情報があった階で身を潜めた。
するとタイミングよく前方からカツン、カツンと不気味な足音が聞こえてきた。
見回りの時間ではない。
月明かりで見えるシルエットはまるで将校のマントを羽織っているようにも見える。
「……マジかよ、ちょっと危ういシルエットだぞ」
「将校クラスがこんなところウロウロしてるはずねぇよな…」
不気味なほど生ぬるい風が三人の足元を抜けて、名無しとヘルメッポがごくりと唾を飲み込む音が響いた。
やけに細長いシルエットはか細い足音を鳴らしながらゆっくりと歩いてくる。
壁に身体を隠しシルエットを覗き込む三人の身体が微かに震えた瞬間、先程まで綺麗な星空だった空に雷光が走って辺りを不気味な光で包み込んだ。
一瞬走った光がシルエットを照らしたのだが、そこに見えたのはこの世のものとは思えない悲痛な顔だった。
「ぎゃーーーっ!!」
「出たあああぁぁ!」
微かに見えた骸骨のような恐ろしい顔に名無しとヘルメッポが我慢できずに叫び声を上げると、コビーがびくりと肩を震わせた。
「ま、待ってください!二人とも!」
「呪われるぅぅぅっ!」
「魂吸われるぅっ!!」
コビーの呼び掛けも無視して慌てて逃げ出そうとする名無しとヘルメッポはお互いの足を踏んで頭を壁で強打した。
ガツンッと響いた痛々しい音にコビーが肩を竦めて、強く目を瞑る。ゆっくりと目を開けた時には、名無しとヘルメッポは仲良く気絶していた。
「むっ!大丈夫か!?どうしたと言うのだ……すぐに手当てをせねば!」
「Tボーン大佐…っ」
シルエットの男が音を聞き付けて名無しとヘルメッポに駆け寄り、軍の支給品である外套を躊躇なく引きちぎり手当てに使う。
骨ばった痩躯に異形な顔立ちのその男こそ先程名無しとヘルメッポが見て叫び声を上げた原因である。
シルエットの正体は見慣れた海兵からも怖いと評判のTボーン大佐だった。
見た目は恐ろしいが、平和を愛し仲間を愛する部下思いの上司らしい。暗闇で見ると心臓が止まりそうなほど怖いが。
平和な夜
「……うう、頭打った…」
「大丈夫か?しっかりしろ!今私が助けてやる」
「ひぃぃっ!」
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