海軍本部では毎年新兵が入ってくると必ず流行る噂がある。
深夜、骸骨が本部内を徘徊しているというなんとも非現実なその噂は、なんというか新兵なら必ず一度は通る道であり、上官達もあまりこの報告をまともに相手にしない。
「と、言うことで始めたいと思います!イェーイ!」
「……」
「……」
パチパチと一人で手を叩く名無しは、目の前で怠そうな顔をしているヘルメッポと、眠そうな顔をしているコビーに拍手を促す。
気力のない二人は夜中に叩き起こされたのだから仕方がない。
「拍手!拍手が聞こえない!もっと気合い入れろや野郎共!!」
「そんなこと言われても名無しさん…、僕達今日は海賊を大量連行して凄い疲れてるんですよ……」
ぐったりとしたコビーは、がしがしと頭をかきむしりながら長いため息を吐いた。
ヘルメッポならまだしも、コビーがここまで不機嫌なのは珍しいことだ。余程疲れているらしい。
「まあ、疲れているのは皆同じ!私なんか今日はサカズキに服装のことで文句言われて口答えしたら追いかけられて、ガープに捕まって拳骨食らった挙句罰として腹筋背筋スクワット地獄スペシャルセットをプレゼントされたんだぞ」
「そりゃテメェの自業自得だろボケ」
自慢気に語る名無しを正論で一刀両断したヘルメッポだったが、論破された本人は全く気にしていないのかどうでもよさそうに手を叩いて話を終わらせた。
「そんなこまけぇこたぁどーでもいいんだよバカ野郎!さて今回は夜中に歩き回る骸骨を調査しようと思います!」
「どうでもいいなら言うなよ死ね」
「そう簡単に死ね死ね言うんじゃないよこの単細胞め!くたばれ!!」
「あの、どうでもいいんですけどやるなら早く終わらせませんか。僕本当に疲れてるんで」
キーキーと騒ぎ立てる名無しとヘルメッポにため息混じりでそう呟いたコビーに、二人は瞬時に口を噤んだ。
いつもは穏便なヘルメッポが少し声を荒立てるなんて相当なことだ。そんなヘルメッポに口答えする気にはなれない。
「おい謝れヘルメッポ。土下座して切腹しろ」
「お前がしろ。大体叩き起こしにきたのはお前だろ」
眠れる獅子
「もう僕が指揮を取ります。グダグダ言ってないで行きますよ」
「あ、はい」
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