クザン曰く、海軍はバイトを認めていないらしく、刀を造ることは違反に当たるらしい。
だから有給休暇は取れないという理由らしいのだが、名無しからしてみればだからなんだという話だ。
「だから有給休暇は諦めてって言ったじゃない」
来客用に用意されたソファに浅く腰かけていたクザンは言い終わると同時にごろりと横になって大きく伸びをした。
そんなクザンの代わりに高そうな革張りの仕事用の椅子に座っていた名無しは、ふーんと興味なさそうに鼻を鳴らす。
どうせクザンのことだ。今の話で総エネルギーを使い果たして後は寝るだけだろう。
机に溜まりに溜まった書類は名無しが捌くことになる。
最初のうちはどんな書類が急ぎでどんな書類が後回しにしていいのかわからなかったが、最近は数こなしているせいか大体わかってきた。
なるべくクザンにさせようと粘ってみたが、自分でやってみたら意外に簡単だったことや、後から大騒ぎで終わらせることを考えたら自分でやったほうが楽だし、早く終わることに気がついた。
「そもそも刀を直せって言ったのはクザンなのになんで私が有休を貰えないかが理解できない!なんのための大将だ!」
「あー…あれだ、大将なんて戦力が認められたただの高給取りのただの雑用だよ」
「おい!ただのの使い方間違ってるぞ!!殺意がわくからやめろ!」
ソファからはみ出した足をぶらぶらと揺らしてアイマスクを装着したクザンに、名無しはバシバシと机を叩いて抗議した。
机の上ではグラグラと書類で出来たビルが揺れる。
「なんだっけ?なんの話からこんな話になった!?よくわからんけど高給取りは下のために早めに死滅しろ!」
「そういえば名無しちゃん知ってた?キュウリの9割は水分なんだよ」
「マジかよ!もはや水じゃん!」
「しかもキュウリにはビタミンCが入ってるらしい」
「お肌にいいねぇ!」
「でもそれと一緒にビタミンCを壊す成分が入ってるんだよ」
「嘘だろ!!本末転倒ぉ!」
クザンの言葉にのせられた名無しは、有給休暇のことでもなく、高給取りのことでもなく、キュウリのことでその場に膝から崩れ落ちた。
これぞ本末転倒
「なんの話してたっけ」
「キュウリだったよ」
「そう、キュウリ。正に野菜の破壊神だな!」
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