臨死体験


ずるずると引き摺られて元帥の部屋から引っ張り出された名無しは、そのままクザンの部屋へと連行された。
最大の武器である口を塞がれたまま連行される名無しの顔は怒りで赤くなるどころか、青くなっている。


「全く、名無しちゃんなに考えてんの」

「ぶはっ!!!!」


ようやく部屋について口を解放された時、名無しはすでに酸欠で死にかけていた。
名無しから言わせてもらえば、鼻と口を同時に塞ぐお前がなにを考えているんだという感じだ。苦しくて言葉にならないが。


「有給休暇の件はダメだってあれほど言って聞かせたじゃない」

「ハァハァ!死ぬかと、思った……」


肩を揺らしながら必死で呼吸を繰り返す名無しは、項垂れながら喉を押さえた。
酸欠で頭はボンヤリする。


「折角理由を付けて本部から離してあげようとしてるのに、センゴクさんにあんな直談判に行ったら誤魔化しようがなくなっちゃうでしょうが」

「もうダメ……息するのも辛い……」

「聞いてる?名無しちゃん」

「聞いてねぇよボケ!テメェ人を……あ、ダメだ。マジ酸欠」


クザンに掴みかかろうとした名無しだったが、思った以上に力が入らずに膝から崩れ落ちた。
いくら口から産まれたとはいえ、酸欠ではまともに話すことも出来ない。


「目の前にお花畑が見える……」

「あらら、名無しちゃんそれってもしかして渡ったらあの世的な川があるんじゃない?」


幻想的に広がるお花畑のほとりには川も見えてきた。
もうダメだと思った瞬間、川の向こう側でレイリーが俯き加減に笑っているのが見えて一気に意識が戻ってきた。


「はっ!」

「おかえり名無しちゃん」

「あのまま渡ってたら多分地獄でもコキ使われるところだった!マジ危ねぇ!」

「一体なにを見てきたの」


はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す名無しは、吹き出した汗を腕で拭う。
レイリーは正確にはまだ生きているが、もう棺桶に半分足を突っ込んでいる感じだし、あの凶悪な性格からして普通にあの世と行き来していてもおかしくない。おかしくない。


「なんで二回言ったの?」

「自分を納得させるためだよ」


自らを落ち着かせるために胸を数回撫でた名無しは、関係ないが自分のまな板っぷりに底知れないショックを受けた。













臨死体験


「この平らっぷりよ……絶望した!」

「名無しちゃん、一体なんの話をしてるの?」



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