トップと底辺



やけに布団が冷たいと思ったら、廊下に寝ていた。驚きはしないが、最近は固いところに寝ると背中が痛くなるのであまり床には寝たくない。


「寝起きに背中が痛くなるなんて歳だわ……」


基本的にどこでも寝れるタイプと言うのが最大の売りだったのに、これでは嫁に行けない。


「名無しちゃんぐらいタフなら嫁の貰い手は引く手甘々なんじゃあないの」

「そうそう農家とか特にな!ってうるさいよ!」


ボリボリと頭を掻きながら廊下に座り込んでいた名無しは、後ろから聞こえた声に反射的に乗って突っ込んだ。
寝惚けていてきちんと認識していなかったが、突っ込んだ相手はあの朝に超絶弱いクザンだった。


とりあえずクザンを二度見して、太ももをつねって自らの頬をビンタしてみたがクザンの姿に変わりはなかったので幻ではないらしい。


「……なんだなんだ、とうとう世界の終わりがきたのか?戦争でも始まるのか?」

「あらら、俺だって徹夜で仕事することぐらいあんのよ」

「ななな、なんだって!?徹夜で仕事だと!?」


クザンから飛び出した言葉に心臓が止まるかと思ったぐらいびっくりした。
クザンが徹夜で仕事をするなんて、サカヅキが仕事サボって海賊と仲良く麻雀してるぐらいあり得ない。

サカズキのことを思い出すと、治りかけの口腔内がつきんつきんと痛む。今思い出しただけでも腹が立つ。


「海軍大将がなんぼのもんじゃい」

「あらら、いきなり八つ当たり?」

「私の中の大将の位はランクダウンしてるからね正に急降下」


未だに痛みを感じる口腔内を慰めるように頬を撫でると、クザンは短く溜め息を吐いて頭をボリボリと掻いた。


「名無しちゃんは知らないかもしれないけど、例の一等兵は降格になったんだよ」


溜め息混じりの言葉には疲労の色も混じってみえる。


「は?なんで?」

「まあ、もともと色々陳情が上がってきてて対処がサカズキに任されてたところだったからじゃあねぇのかな」


どうでも良さそうに遠くの方を見ながら喋っていたクザンは、ずり落ちてきそうなアイマスクを指で引っ張りあげる。


「どうだか。慌てて対処したフリしてるだけじゃないの」

「あららら。名無しちゃんが思ってるよりも上は非情じゃあねぇよ」


訝しげな顔で睨み付けた名無しに、クザンは一度軽く肩を竦ませて笑った。










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