名無しに下った罰則は、本部の周りの草むしりと石拾いだった。
下級兵同士の個人的な争いだったことからそんなに重くはない罰になったんだとクザンが言っていたが、そもそも個人の喧嘩程度で罰則が適応されるのが納得いかない。
それが軍というものだと言われればそれまでなのだが。
「口がいたい。サカズキのヤツ絶対恨んでやる」
ぶちぶちと草をむしっては袋の中に放り込んでいく名無しは、未だに鉄の味がする口腔内に顔をしかめた。
大きな袋は既に半分ほど埋まっているが、まだ本部周りの4分の1程度しか終わっていない。
パイ事件の後、散々サカズキにビンタを頂き、騒ぎを聞き付けた中将達の仲裁のおかげでその場は治まったが、その後に出てきたセンゴクの顔が更にムカついた。
声には出ていなかったが、またお前かと言わんばかりの顔で、返ってきたのは溜め息だけだった。
「名無しさん」
「なんだこの野郎!私は今頗る機嫌が悪いぞ!歩く剃刀のようにな!」
一際根が張った草をぶちっと力強く抜いた名無しは力任せに袋の中に草を突っ込んで声の方を振り返る。
そこに立っていたのは左頬を腫らしたコビーとヘルメッポだった。
両頬を腫らした名無しが言うのはおかしいが、変な顔だ。
「ぶっさいくな面してどうした」
「自分の顔面を確認してから言えよ」
むすっと顔をしかめていたヘルメッポは、腫らした頬のわりにはすっきりとした顔をしている。
「サカズキ大将のところに行ってきたんです。だから僕達も手伝いますよ」
ごみ袋と箒を持参していたコビーは名無しの隣に座り込んで草をむしり始めた。
「なんでサカズキのとこ行ったの?殴られに?お前らマゾ?マゾなのか?」
「わけを話したらヘルメッポさんが」
「あとでテメェに恩着せがましく言わせねぇために決まってんだろ」
コビーの声を遮ったヘルメッポは、持っていた箒の柄で名無しの背中を小突いた。
「素直にありがとう可愛い名無しちゃんぐらい言えよ」
「テメェこそ心配してたならそう言えよ」
「心配なんかしてねぇよデコ」
「俺だって頼んでねぇし」
コビー同様に隣に座り込んだヘルメッポはむしり残した草をぶちぶちとむしった。
頼んでないし感謝もしてない!
「マジ顎うざー」
「この女うざー」
「止めてください」
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