三等兵の細やかな反撃



「コビー、準備はいいか」

「あの……本当にするんですか?」


仕事明け、名無しとコビーはクリームのたっぷり乗ったパイを片手に待ち伏せていた。
狙っている相手はとある一等兵。

その一等兵は名無しとは全く関係のない海兵なのだが、コビー曰くヘルメッポに嫌がらせをしているとかなんとかで、辞めたい辞めたいと言っていた原因を作った本人だそうだ。
ヘルメッポが辞めたいと言っているのは一時的なことだと思っていたが、意外にも深刻なことだったらしくコビーに相談された。


「でもこんなことしてバレたら、懲戒免職ものですよ……」


顔を青くして呟くコビーは、持っていた縄を握りしめたままブルブルと小さく震えていた。
入りたての三等兵が一等兵に手を出すことなど完全縦社会である海軍では到底許されることがないことだ。


「じゃあなんだ?ヘルメッポがコケにされたのを黙って見とけって言うの?」

「そういうわけじゃないですけど……まずは上官に話を」

「上官に話してどうすんだ馬鹿!ここはもう偶然を装って転ばせた挙句顔面にクリームパイをグリグリ押し付けるしかないだろ!?」

「それはもう偶然じゃないと思いますけど」


意気消沈するヘルメッポの為に仕返しをしてやろうと嫌がるコビーを無理矢理引っ張り出して今に至る。
ちなみにコビーは縄で転ばせる役で、パイを持っている名無しは偶然パイを持って通りかかり偶然躓いてしまい、偶然一等兵の顔にパイをグリグリ押し付ける役だ。


「ヘルメッポが辞めたら格下の相手がいなくなるから困る!」

「素直に寂しいって言ったらどうですか」

「寂しくはない!いつもからかって遊んでた近所の飼い犬がいなくなっちゃうのと同じ感じ!」


パイを持ったまま力説する名無しにコビーは長い溜め息を吐いて、持っていた縄を握り直した。


「確かに僕も理不尽さは感じてましたし、もうここまできたら引き返せないですよね」


なにか吹っ切れたように強く頷いたコビーは、角から廊下を覗き込みながら大きく深呼吸をする。


「名無しさんは向こうにスタンバイしていてください。タイミングは僕が図って合図します」

「さすがコビー。吹っ切れたらお前ほど頼りになりそうなやつはいないよ」

「それって褒めてるんですか?」

「勿論。私の中では最大の褒め言葉だよ」

「ならありがたく受け取っておきます」












三等兵の細やかな反撃


「(今です!)」

「うわあっ!偶然足が滑って躓いてしまったぁ!!」





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