「おい」
「おわっ!!」
走って通りすぎようとした瞬間に、ぐいっと髪の毛を引っ張られて先走った足のせいでその場に転倒。しかもいきなり後ろ方向に倒れたせいでガードする余裕もなく、後頭部を床で強打した。
久しぶりに目の前に星が散るのを見た。
「いっ……」
痛すぎて言葉にならないと言うのは本当らしい。
いつもならもうマシンガンの如く文句を言ってやるところだが、痛すぎてごろごろと床を転げ回って悶えるのが精一杯だ。
「いつまでゴロゴロしてんだ。上司が呼んでるんだからさっさと返事しろ」
「ゴロゴロしてないしっ!先に謝れよ!後頭部強打とか洒落にならんぞ!?」
痛みに震えていた名無しに容赦ない言葉を落としたのは、部下想いで有名なスモーカーだった。
その部下想いスキルはどうやら名無しにたいしては発動しない仕組みらしい。なんとも役に立たないスキルだ。
「ブツブツ言ってねぇでさっさと立て。俺は暇じゃねぇんだ」
自慢の十手で肩をトントン叩きながら顔をしかめたスモーカーは、口から盛大に紫煙を吐き出しながら舌打ちをした。
舌打ちをしたいのは踏んだり蹴ったりな名無しの方だが、スモーカーにはそんなことは関係ないらしい。
「なんすか。お忙しいスモーカーさん。実は私も凄く忙しくて今もダルちゃんに書類を届けるために全力で走ってたわけなんだけれども」
「葉巻買ってこい」
「聞いてた?私の話聞いてた?特に後半」
「もうすぐ無くなるから無くなる前に買ってこい」
「じゃあ一本ずつ吸えよ!贅沢吸いするから足りなくなるんだろ!馬鹿か!」
皺だらけの曲げられた札を無理矢理頬にぐりぐりと押し付けられて、露骨に眉間に皺を寄せるがスモーカーにはやはりどうでもいいらしく早くしろと言わんばかりに逆に睨んでくる。
贅沢に二本ずつ吸うから無くなるということが何故わからないのか、不思議でならない。
「アンタね、言っとくけど私は仕事は仕方なくしてんだからね!?葉巻買いに行けって言うのは仕事じゃないから!」
「釣りはやる」
「行ってきます」
スモーカーの一言に、頬に押し付けられていた札を受け取る。
「スモーカーからの頼まれたって言えば勝手に用意して貰える」
「あいあいさー!」
はじめてのおつかい
「あ、ダルちゃんに書類届けるんだった!……ま、いいか」
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