朝、三等兵の仕事は掃除から始まる。勿論名無しも例外ではない。クザンの下についていて、なんとなく偉そうにはしているが、実際はなんの権力もなく同じ三等兵と一緒に爽やかな掃除から一日が始まるわけだ。
まぁ、爽やかと言うには少しだけ時間が辺りは暗すぎるのだが、早起き自体がそんなに苦痛ではない名無しからしてみれば特に気になる時間ではない。
「見て見て!魔女!魔女掃き!」
竹箒を手にしていた名無しは周りのテンションなど気にすることなく箒の持ち手に跨がり、そのままサッサッと銀杏が散った地面を掃いていく。
どう考えても効率が悪いのだが、名無しからしてみれば楽しくなければ効率なんて上がるはずもないという考え方なので、効率なんてクソくらえなわけだ。
「お前なんで朝からそんな無駄にテンション高いの?ウザいから死んだらいいのに」
「やべ!股が痛ェ!」
「しかも下品。生きてるのが恥ずかしくなるレベル」
朝からテンションが高い下品だと罵るヘルメッポだって似たようなものだ。
本当に眠たい人間と言うのは、コビーみたいに周りなんてどうでもよくて早く掃除を終わらせようと黙々と仕事をする人間みたいなことを言うのだと思う。
「お前こそよくもまあそんなに朝から文句ばっかり言えるな!そんな暇があるならもうちょっと手動かしたらいいのに!」
「うっせぇばーかばーか。話しかけんな」
「なにその幼児レベルの悪口。結構地味に傷付くんだけど……」
がさがさと銀杏の葉をかき集めながら呆れたような顔でヘルメッポを見ると、なにが癪だったのかは知らないが持ってるだけだった竹箒を投げ捨てた。
それを傍目で見ていたコビーは眠そうに目を擦りながら気まずそうに目を伏せる。
「もう海軍辞めてぇ!」
ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき混ぜてヒステリックに声を荒立てたヘルメッポの言葉に、コビーは意外にもあまり驚いてはいなかった。
辞めたいと思うことは名無しもよくあることなのでどうも思わないが、それよりもこういった場合声をかけるべきかかけないべきかで悩む。
あまりの気まずさにコビーの方を見る。
「先輩方に嫌味を言われたんです。それでヘルメッポさん落ち込んじゃって」
見るに見かねたコビーが訳を話してくれたが、わりとどうでもいいような理由だった。
辞める辞める詐欺
「ヘルメッポ、ここは一つ人生を諦めてみては?」
「お前が死ね」
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