「実戦試験もあるなら先に言っててよ!もう、無駄に頭使っちゃったよ!」
「あらら、名無しちゃん全然頭使ってるようには見えなかったけど」
「人は見かけによらないんだ。特に私の場合は見かけよりずっと繊細で可愛いとか」
「…あ、スモーカーのとこの」
「聞けよ!聞 け よ !」
一番大事な部分をスルーして通りすがりのショートカットの女性に声をかけたクザンは、地団駄を踏む名無しなんて綺麗に視界から消し去って何やら話し込み始めた。
気のせいか女性の態度が固すぎる。セクハラ紛いなことを言って困らせているのかもしれない。
「ここは…斬るか。斬るのが世界の平和のためなんじゃないのか」
刀に手をかけた瞬間、こちらを向きながら話をしていた女性の目がつり上がって、身体に似合わない長さの刀が頭のすぐ上を風を切りながら滑っていった。
「大将の背後で刀に手をかけるとは何事ですか!神妙にしなさい!さもなくば斬ります!」
「怖っ!なに!?めっちゃ怖っ!」
辛うじて避けたのは避けたが、避ける方向を間違っていたら頭は吹っ飛んでいた。
神妙に、なんて言うわりには一瞬で終わらせる気満々だったらしい。
「たしぎちゃんが試験官引き受けてくれるって」
たしぎの太刀筋から完全に外れたところに避難していたクザンはよかったよかったと安心したように短く息を吐いて、それからダルそうに石段に腰掛けた。
相手をするのが面倒で代役を探していたら、たしぎが抜刀したので自分はとっとと戦線離脱したらしい。
もうあんな面倒くさがりいっそのこと生きることを諦めたらいいのに。
「えっ?どういうことですか大将!私試験官なんてやったことありませんよ!」
クザンの言葉に刀を構えたままわたわたと慌て出すたしぎは、今にも泣き出しそうな顔でクザンの方を見ているが、クザンはもう他人事のような顔をしている。と、言うかアイマスクして寝ようとしていた。
「適当に技量測ってくれたらいいから。殺しちゃいけねェよ」
「ええぇぇっ!そんなこと…あ、試験官のたしぎ少尉です。あの…宜しくお願いします」
戸惑いながら名無しの方を見たたしぎは、一度刀を下げてぺこりと頭を倒した。
そんなこと出来ないといいながら試験官を名乗る辺り結構お人好しなんだろう。
「名前は名無し。白骸を我が手に入れんが為にメガネちゃんを打ち負かす女です!よろしく!」
「…白骸?」
乳白色の刀を鞘から抜くと、たしぎはメガネを指で押し上げてから、目を大きく見開いた。
「わ、私の…私のコレクション!!何故貴女が持っているんですか!?」
「ノー!これはもともと私の!」
「この盗人!返しなさい!」
この盗人!
「結論から言ったらこれは私ので、メガネちゃんが盗人!」
「失礼な!これ以上私を侮辱するなら斬りますよ!」
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