白雪姫 「何か変なことでも言ったかい?」 鳩が豆鉄砲でもくらったような顔で女はこちらを見つめている。りんごを食べていた動きも完全に止まってしまったようだ。瞬きを数回繰り返すとおれから目を反らし、何かに迷っているように視線を泳がせるとぽつりぽつり話し始めた。 「……今までだれも、わたしのために願い事を使ってくれる人なんて、いなかったから……」 ちょっとびっくりしただけ、と女は続けた。 「やっぱり変だよあなた」 「マルコ。おれの名だ」 「……変な名前」 「おまえには言われなくねェよい」 ふふっと笑い、今までで一番幼い顔を見せた。視線は外されたままだったから、横顔しか見ることができなかったけど。その目は手の中にある食べかけのりんごをじっと見つめている。 「わたしはずっと人の願いを叶えて生きてきたから……」 一拍あけて、女は小さく呟くように言った。 「自由になるのがこわい」 |