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 目の前に広がる野菜の赤、緑、黄。カラフルなそれらをひたすら噛み砕いて胃に流す作業を機械的に続けていた。この行為を 食べる と言うにはちょっと、はしたない。草、種、実、全部私の胃のなかでぐちゃぐちゃだ。歯がぶつかる音が聴覚を侵し続けて周りの音が聞こえなくなってきた。一体どれほどの時間、そうしていただろうか。テーブル真向かいに赤司がいることを認識したのは、部屋に西日がさし始めた頃だった。




「…いつから?」
「君こそ、いつから?」




 わからない。2時間くらい前だった気もするし、3日ほど前だった気もする。それよりももっと前かも知れない。私と彼の間に流れる沈黙が何だか懐かしかった。ゆっくり陽が沈んでいくと赤司は読んでいた本を静かに閉じて祈りを捧げるように、目をふせた。私はフォークをテーブルにそっと置いてべたつく手をタオルに押しつける。ふと、下を見ると私が食べた野菜が形を保ったまま、椅子を支える土台となっているのがわかった。赤司の椅子の下は本だらけで、今にもバランスを崩してしまいそうな危うい状態だ。

 崩れてしまったら、どうなる?

 爛々と光るオッドアイが私を捕らえた。



「どうしてこんなことしてるんだろう」
「したいから、だろう?」
「…そうだね」
「自問自答だな」




 くすくす。瞳が瑞々しく熟れたミニトマトみたい。赤司の綺麗な目、口に入れたらどんな味がするんだろう。細いフォークを握る。きっと赤司は本を開いて次のページに没頭している。



「「ああ、可笑しい」」



 重なった独り言は下に落ちた。



130126 amo
食い散らかす怪物


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