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 夢を見る。何度も繰り返し、同じ夢を。そこでは私は、宝石みたいにきらきらした笑顔で笑う女の子の母親だ。かわいいかわいい私の娘。その子が笑っただけで胸がぎゅっと締めつけられて、切なさに泣いてしまいそうなほどの幸せを感じるのである。この子が世界中を敵に回しても、私だけは味方でいる。守ってあげる、そんな気持ちになる。
 天気はいつも晴れ。ベランダで洗濯物が風に揺れている。テレビは現実味のわかないニュースを流している。私の膝で可愛い娘は寝息をたてていて、どこからかアコースティックギターの音がぽろんぽろんと聞こえてくる。


 なんて幸せな世界だろう。





「…ま、ま」
「んー?どうしたのー?」
「ぱぱ、」
「パパはお仕事。もうすぐ帰ってくるよー」
「おむかえ、いく?」
「ん、行こっか」




 財布と鍵だけ持って、娘と夕暮れの道を歩く。道ばたに咲いている花を見つけるたびに立ち止まってしゃがんで、娘の小さい手に花を一輪持たせて。小さいころに歌った懐かしい歌を二人で口ずさんで。横断歩道の向こう側に私の旦那様が見える。信号が青に変わると、娘は握っていた手を離れて夫のもとへ駆け出していった。転びそうな足取りが私をひやひやさせる。




「…おかえりなさい」




 夫が娘を抱き上げるのを見て、私の夢は終わる。
















「なんて、ありえないけどね」



 自嘲気味に口元を歪ませると財前は何か言いたげに口を開いて、地面を蹴った。ついこないだまでは、自分の未来がそうなってもいいと思ってたよ。ちょっと、憧れだった。




「次、寝たら私は起きないみたい」




 今もすごく眠い。気を抜いたらそれこそ一瞬で私は寝る。そしてもう二度と目覚めることはない。自分のことだからわかるよ。医者も研究者も匙を投げた。親はここ最近ほとんど寝ていない。たまに泣いてる。可哀相だって、私のこと。先生も授業中に私が寝てても何も言わない。




「どうしようもないね」
「……」
「財前、泣かないでよ」
「…無理っす」
「私、夢の中で幸 せに  なる ね」




 夢の旦那様が財前だったらいいのにね。と言おうとして瞼が落ちた。




130704 amo
幸せな世界


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