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 昨日のことを思い出す。その前の日を思い出す。さらに前の日、瞳を閉じた視界の中で記憶をさかのぼっていく。何をしたか誰といたかどこへ行ったか、覚えているのに過去のわたしと今のわたしが結びつかない感覚がした。それを上手く言うことはできない。記憶と現実がばらばらに離れているような、一日一日を違うわたしが生きてるような感覚がするのだ。今こうしているわたしと昨日のわたしが違う人だなんて、実際にそんなことはないはずなのに違和感が薄くこびりついて離れない。それを振り落とすように、5日前に買った花柄のワンピースを着る。同じ店で買ったピンクゴールドの細いバングルを左手首につける。わたしがしたことを思い出しては正しいことを確かめるように。全て当てはまればほら、不安がくるよ。ちいっとも振り落とせやしない。くそったれ。




「……もしもし、」
「もしもし?起きとった?」
「起きてたよ。どうしたの?」
「今からそっち行ってええっすか」
「いいよ。何か飲み物買ってきて」




 お茶?という質問に うん、ウーロン茶。と端的に答え、電話を切る。胃からせり上がる何かを全部吐き出してしまえば少しは楽になるだろうか。わたしは一体なにを吐き出すのか。全身鏡の前でうずくまり、「わたしはわたし」「わたしはわたし」繰り返す。わたしはわたし。大丈夫。違わない。大丈夫。全然大丈夫。鏡の中のわたしが歪に笑う。




「……どうしたん?顔、真っ青やん」
「何でもないよ。お腹すいてるからかも」
「俺も腹減っとったんで、適当に買ってきましたけど」
「ありがと」




 カルボナーラ。わたしが大好きなコンビニのやつだ。一回しか言ってないのに覚えていてくれたのが嬉しくてぎゅっと腕に抱きついてみる。扱い方を知らないように頭を優しく撫でる手が好き。こういうとき よくわかる。
 付き合い始めのころ感じてた、胸が焦がされるほどの激しい恋情がなくなってしまったこと。きっともうない。好きの変化にわたしは戸惑っているのかもしれない。違う感情になっていくことに。変わってしまったけど、そばにいる。好きだと言うし体を重ねる。




「…なんか、痩せました?」
「そうかも」




 わたしの大好きなカルボナーラ。彼が買ってきてくれたカルボナーラ。今日も胃の中に入ることはできない。ごめんなさい。わたしは食べ物を吐き出して、身に住まう不安を吐き出している。ごめんなさい。ごめんなさい。と泣きながら。

 あなたにだけは知ってほしくないこと。


 いま、わたしはわたしかわからないままということ。きっと理解はされないだろうとあなたに話さないこと。日に日にあなたがあなたなのかわからなくなってきている。



130607 amo
わたし、だれ?


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