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何にもいらない!



 頭の中に浮かんだ言葉は自分でもよくわからないまま、脳みそに溶けていく。何にもいらない。贅沢だ。何でも持っている人が全てに飽きたときにうんざりしながら叫ぶ言葉、っていうのは私の勝手なイメージだけど。あながち間違ってもないんじゃないか、って思うのは私がさっき財前に言った言葉だから。




「なーんにも、いらない」
「何やそれ」
「そういう気分だから言ってみただけだし」
「…俺も?」
「え?」
「俺もいらんの?」




 やたら真剣な顔してる財前の目をまっすぐに見れなかったのは、財前のアイスコーヒーのグラスがすごい汗をかいていたからだとか、私のメロンソーダの炭酸がぱちぱち弾けてどこに行くんだろうとか考えていたからで。…たぶんそういう理由で返事が遅れたんだけど。炭酸のぬけたコーラみたいに甘ったるい声が出て自分でもびっくりした。




「なんで?」




 質問に質問で返した私に冷ややかな眼差しをくれてどうもありがとう。




「意味分からんわ」
「財前はなんて言ってほしいの?」
「……言わせるんか」




 いや、わかってるけどさ。財前だけは必要だよ、いらなくなんてないし、むしろ要るし!とか言ってほしいんでしょ。でも私いまそういう気分じゃない。財前にいじわるしたい気分。逆に財前に聞きたいね。




「財前はどうなの?私が必要?」
「先にお前が言ったら言ったる」
「言わんし」
「せやったら俺も言わんわ」




 いらいらしてる空気が私たちを包む。財前は私がいなくなっても、同じ委員会のちょっと仲良い女の子が私の代わりになってくれるんだろうなって考えたらすごくいらいらした。でも別に私にだって財前の代わりはいるし。財前には言ってないけどちょうど告られたばっかりだし。すぐ断ったけど今ならまだ間に合う気がしてる。はずなのに財前の代わりがあの男の子に務まるはずがないとも思ってる。財前もそう思ってくれたらいいな。私の代わりはいないって。




「財前、」
「なんや」
「好きだよ」
「…おおきに」
「どういたしまして?」




 何にもいらないけど財前だけは必要で、別に財前がいなくても生きていけるけど、財前がいないとつまんなくて死んじゃう。とつぶやくと怪訝な顔をした。わかってくれなくてもいいよ。




130507 amo
ソーダ色した彼


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テーマ「人外ファンタジー」
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