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 むっくんは行き詰まると何かを作り出す。一人でもくもくと。一体何と闘ってるのかは恋人の私にも教えてくれないからわからない。いつも、むっくんは誰かに頼ろうとしないんだ。一人で抱えこまないで話して欲しいけど、聞き込みすぎてしつこいとあしらわれた。……私じゃ力になれないのかな、って思うわけですよ。寂しいわけですよ。でもさ、落ち込むにしろ、悩むにしろ、考えるにしろ、もうちっと静かにできねーもんかと思うよ?




「くっそぉおおおおお」
「なに?夜中にうるさいよ〜」
「それはむっくんでしょ!夜中にパンパンパンパン!」
「だってパン作ってるも〜ん」
「知ってるよ!!!超いい匂いしてるもん!!」




 ちなみに今3時ね。夜中の3時ね。意味わかんない!何でパン?うちホームベーカリー買ったばかりなのにホワイ?スイッチ一つでパン作れるのになぜ手作りパン?意味わかんない!夜な夜なパンの生地を叩きつける音の中眠って、部屋中焼きたてパンの匂いが漂う。むっくん春のパン祭り開催中なの?朝にパン食べて夜もパン食べて。私パンって何回言った?わたしがストレス溜まりそうだよ〜氷室さん助けて〜もうこの人わかんないよ〜




「いいから寝れば〜?明日も仕事でしょ?」
「むっくんがパンをパンパンするからパン臭で寝れないんじゃん!」
「パンって4回言った〜」
「ぅうるっせいっっ!!」




 巻き舌だよ。勢い余って巻いちゃったよ。




「落ちつきなよ」
「あのさ、むっくんさ、悩みがあるんだったら聞くよ。私じゃ力になれないかもしれないけど、夜な夜なパン作られるのもどうかと思うし…、いや違う。パンは美味しいからいいや。」
「なまえちん眠いんだったら寝なよ。言ってること意味わかんないし〜」
「いや眠くない。あんね、私はね、むっくんの力になりたいの。何でも話してほしいんだよ。一人で抱えこんでパン作ってジャムおじさんになりたいの?そしたら私アンパンマンにならなきゃいけなくない?」
「ね〜、もうまじうざいし寝てよ〜」
「むっくん?!人の好意を何だと思ってんだ!!」
「それはなまえちんが押しつけてるだけじゃん」





 とか何とか喧嘩してたら目覚ましが鳴って朝を迎えたことに気づいた。どっと疲れがきた。…わたし、何でこの人を好きになったんだっけ?とか真顔で考えるくらいには疲れている。仕事行きたくない。旅に出たいし、海が見たい。現実逃避だ。一日中寝てたい。でも仕事に行かなくちゃ。着替えて、化粧して、お弁当つめて、ああめんどくさい!今日だけ会社が爆発したらいいのに。




「パン焼けたよ〜」
「……あ、うん」




 差し出された焼きたてのクロワッサンを一口かじる。さくさくしてて、美味しいけど意味わかんないよ。これすごく美味しいね、って呟いたら、当たり前じゃん。俺が作ったんだもん。って一言。ああ、そうですか。




「考えもまとまったので」
「あそう。良かったね……」




 やっとパン地獄から開放されるのか。さようならむっくんのお手製パン達よ。なかなかに美味であったが私はしばらくパンを見たくない。スウェットを脱ぎ、ストッキングを履いていると後ろから抱きしめられた。わあ、ストッキング破けたよむっくん。




「結婚しよ」
「……」
「あれれ〜反応なし?」
「か、会社休む」




 部屋中焼きたてパンの匂いで、全身パン臭いむっくんと破れたストッキングとキャミを着たまぬけな私。ここでまさかのプロポーズ。寝不足の頭じゃ展開に追いつけないからとりあえず二度寝してからもう一回言ってもらおう。



130419 amo
crazy




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