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 君以外、なにもいらないよ。と幸村はクサい台詞を吐いた。それが似合ってないこともなかったから腹が立ってわざと冷たく、嘘臭いと嘲笑った。ていうか、嘘。私なんかがいても腹は膨れないし寒さは凌げない。甘い言葉よりも愛よりも、もっと確かなものを。





「…それ、何?」
「指輪だけど?」
「誰に」
「君に」
「冗談やめてくれる」





 百歩譲って、これがただの指輪だったら良かったのに。ありがとうって微笑んで、幸村にキスの一つでもしただろうに。彼が持っているのは華奢なシルバーリング。ふざけるな。あんたの薬指にあるのは一体何だっていうの。シーツの波から抜け出して、ソファーで乱雑に置かれた衣服に袖を通す。





「君は俺があげるものを何も受け取ってくれない」
「そんなもの、私には必要ない」
「本気なんだ。わかってよ」
「…わかってる」
「俺は、本当に君しか愛してない」





 背中からぎゅっと抱きしめられて、言葉をなくす。いずれはそうなればいいなと思ってたこともあった。本当に私は幸村を愛していたし、それは幸村も同じだと思ってた。でもそれはこの関係での話で、関係が変わればきっと愛も変わるだろう。もしかしたら私の代わりができるかもしれないことに気づいてしまった。変わってしまうくらいなら、今のままでいい。今だけを信じている。





「ごめんね」
「俺の方こそ、ごめん」
「でもやっぱりそれは要らない」
「そっか」






 あなたの思い出だけで生きていける気がするから、物は一つも要らない。いつか終わってしまうまで愛してくれればそれでいいの。



130328 amo
泡となって消えるまで
(リクエストありがとうございました)



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