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 その腹ごと切り裂いてやろうか、彼の言葉にそれもいいかもねとぼんやり思った。ナイフを手にとるベルはよく見た無表情で、今朝の私と同じ顔。整理のできない散らかった部屋が自分の気持ちそのままでなんだか笑える。薄く笑うとナイフが頬をかすめた。ベルの白いブーツの爪先にこびりついた鮮血はきっとあの人のものなんだろう。愛していなかったから、どうでもいいや。




「何か、言ってた?」




 爪先を指差し問う。返ってきたのは乾いた笑いと彼の目玉。新品のピンヒールが汚れるのは気が引けたけど、それを思い切り踏みつける。私が殺しても良かったけどそんな気力わかなかったのよ。
 初めて気がついたとき、驚きはしなかった。何となくわかってたのかもしれない。2つの赤い線が確信に変わって、白黒の点が事実になった。最初から結末がお別れしかないってこと。だって愛してもない人との命だから。




「なあ、どうする?」




 悲しくもない。ただ後悔だけ。なのに涙は流れるし、魂が抜けてしまったみたいに感情が遠くて。下腹部に手を当てる。ここに、まだ形もない命があるらしい。




「どうしよう」
「俺はお前を殺してやりたい」
「そう」




 ベルに対して罪悪感は抱けない。ベルのことはすごく好きだけど、やっぱり愛してはいないし、ベルだってそうでしょ?自分の女が他の男に孕ませられたのが許せないんでしょ。そこまで愛してもないくせに。くだらない自尊心、責任転嫁、うんざり。




「謝れば許してやるけど?」
「そんなつもりないでしょ。もういい。」
「…あっそ」





 床にナイフが何本か落ちる音がした。ベル、らしくないよ。伝わる体温は私のものよりずっと低くくて冷たいのに不思議とほっとした。背中に腕を回すと更に強い力で抱き締められる。ごめんね、ふいに出た言葉は誰に宛てたのか自分でもよくわからない。




130322 amo
殺人



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