rush | ナノ


 愛されたかった。親の気を引きたくては、人とは違うばかりした。それでひどく叱られたりもしたけど嬉しかった。どんな感情でも向けられることで自分の存在を確かめてたんだ。捨てられたくない。愛してほしい。私を見て。小さい頃は親が世界の全てで、二人の目に映らなくなったら私は死んでしまうんじゃないかって。



「…なんて、ね」



 実際はそんなことなかった。二人の目に映らなくても私は生きて一人の寂しさが身に積もっていくだけ。父の顔がふと思い出せないことに気づく。そういえば前に見たのはいつだったか。もしかしたら私が知らない間に離婚してるのかも。どうでもいい。形だけの愛だったんでしょ。母は愛の代わりにお金をくれる。ひらひらの紙切れ一枚、代わりになんかなりゃしない。腹は膨れるけど。まあでも育児放棄されてないだけマシか。



「あんな金かかる高校に行かすんじゃなかったわー」



 しょうがないじゃん。私の頭がアンタに似たんだから。言ってもきっとこの人は怒らない。私の声はこの人の耳には届かない。この人の目に私が映ることも、たぶんもうないだろう。残り香にしてはキツすぎる香水の匂いが制服に染みて、気分が悪い。



「…っ、…誰か」



 私を見てよ。愛して、助けて。






×
- ナノ -