rush | ナノ


 室ちんとなまえと俺は結構いっしょにいることが多い。俺ら二人を自由にしてるのを室ちんが世話してるみたいなー。室ちんって世話焼きすぎて母親みたい。ぽつりと言うと、室ちんはそんなわけないだろ、と小さく笑った。
 俺は好きなように生きてるけどなまえもその部類で間違いない。好きでも嫌いでもない、執着しない、期待しない、すべてに線を引いてるような、上手く言えないけどそんな感じ。でも、俺と室ちんだけはその線の中にいるはずなんだよ。たぶん。確信ないけど。



「でもでもー」
「ん?」
「俺より室ちんの方が内側にいる」
「…なぞなぞか?」



 なぞなぞじゃなくてただの独り言だけどあえて言わない。室ちんってバカだね。どんだけ考えたって答えは出ないに決まってんじゃん。だって室ちんにとってなまえは可愛い下級生でしかないんだから。






「紫原」
「……」
「シカトすんな」
「…よだれの痕ついてるし」
「うそまじで」



 紫原もついてるよ、ってこれはよだれじゃなくてお菓子のクズだから。色あせたキャラもののタオルでごしごし口元を拭かれる。ちょっと痛い。



「今日紫原んとこでゲームしたい」



 室ちんに会えるから?とは聞けない。即答で うん とか言われたらイラつくし。生返事をして席を立つ。歩き出すと左下になまえのつむじが見えた。根元が茶色になっててダサい。金髪の丸い頭が揺れる。縁日のヒヨコみたい。
 俺思うんだけど、なまえのそれは恋じゃなくて、ただの刷り込みでしょ。室ちんが世話してくれて、優しくしてくれて、そんな人に初めて会って勘違いしてるだけ。ほんと単純。バカじゃない?気づけよ。気づけ。俺が横にいるのに。





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