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 あれから私の頭の中は紫原でいっぱいで、紫原のことしか考えられなくなってしまった。ほーんと、単純すぎる。愛してくれるなら誰でもいいのか。呆れるわ。席替えをして遠くなった紫原の席に座る。廊下側は隙間風が吹くから寒い。机にはヘタクソな落書き、と端っこに私の名前が書いてあって。はは、何これすっごい恥ずかしい。顔が火照る。今は誰でもいいわけじゃないよ。
携帯の画面に出てる紫原の文字にもドキドキしてんの。



「もしもし?紫原?」
「んー」
「こないだ、殴ってごめん」
「うん女とは思えないくらい痛かったー」
「ごめんて。私謝ったからアンタも謝って」
「はぁ?」
「いきなりキスしたこと謝って」
「…ごめん」
「よし」



 壁一枚向こうに、いるんでしょ。でっかいからわかるし。出てくればいいのに。紫原の顔が見たい。触りたい。…あー、そっか。



「ははっ」
「なーに笑ってんの」
「んー?紫原って私のこと好きだよなぁって思っただけ」
「はぁあああ?好きじゃねーし!」
「紫原、」



 廊下でうずくまっている紫原の頭に触れるとヤダと振り払われた。耳真っ赤なんですけど。隣にしゃがむと、こっちを見て微笑んだ。馬鹿みたい。二人して真っ赤とかさ。青春かよ。熱い頬に大きい手が触れて、私も手を重ねる。ちゃんと見て。



「好きだよ。紫原は?」
「いちいち聞かないでくんないかなあ」



 確かに。そんなんわかりきったことだったね。





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