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ぶうん、と機械がうなって静寂。天気が芳しくないのと、元々この部屋の陽当たりが良くないのとで時間がわからない。体内時計が狂いまくった彼女はカーペットに寝転んで読みかけの漫画を放り投げた。



「蔵」



彼女は俺に触れたがる。ここにいるのを確かめるように。冷たい指が俺を冷やしていくのを静かに感じていた。白い指…指にとどまらず、この部屋に閉じ籠ってから病的に白くなった気がする。




「目、閉じて」



ムラになったピンクの爪が伸びる。瞼越しの眼球を優しく撫でて、ぎゅっとおされた。こんなことをされたのは初めてで戸惑う。以前から頭が変だ変だとは思っていた。世間知らずな彼女を揶揄って馬鹿だとも。ゆるゆると彼女は変になった。変化が緩やかだったから、俺はそれに侵されているのにも気づかなかった。友達に指摘されても、何を言っているんだろうとぼんやり思った。だって、これが俺らの普通なのだから。



「痛いんやけど」



嘘だ。こんな優しくおされたって痛くもなんともない。それがわかっているから彼女は手を止めない。



「何が見える?」
「黒い点みたいなの」



目をつぶればもちろん視界の全部が黒い。ただ彼女におされた一点が白く、そのなかが黒い点になっている。



「私子供生めないんだって」



子宮の手術をしたと聞いたのはついさっきのことだった。目から指が離れて膝を抱えた彼女が痛々しく見えた。かける言葉が何も浮かばない。彼女が何を求めているのかわからない。無償で何でもしてあげたくなった。全てを捧げて守りたい衝動に駆られる。



「よかったー」
「…え?」
「子供なんかいらないもん」



彼女は子供だ。同族嫌悪、頭の中にそんな言葉が浮かんだ。



「爪、どうしたん」



彼女はこんな汚いネイルをしない。安っぽいピンクの爪に唇を寄せて、ふふっとほほ笑む。



「親戚の子にやられた」
「へえ」
「心臓の色みたい」



知らんけどこんなかわええ色やないやろ。Tシャツをたくしあげられ、左胸にあてられた指はさっきよりも冷えきっていた。ねえちょうだいよと耳元で囁く声。どくん、



「蔵の心臓は何色かな」






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