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愛してるとか、好きとか言わなくなってどんくらいだろ。付き合いは長いけど、私と綱吉の間には小さな溝やら壁やらがある、気がする。別に今更隠し事をしてても構わない。だけどそれを隠し通してくれなきゃ嫌だ。私とは違う存在がいたとして、それが何?なんて知らないふりができるほど私は完璧な女じゃないから。
「なにこれ」
絨毯に埋もれた光るものが目について拾いあげる。小さな、ピアス。見るからに私のものじゃないし、もちろん綱吉のものでもないだろう。こんなキラキラしたアクセサリーを着ける部下もいないはずだし。…ああ、そうか。一瞬にしてざわついた心ごとそれを握りつぶした。
「綱吉さあ、」
「なーに?あ、そこの書類とって」
「これ何?」
紙切れがばさあっと舞ってその向こうに君の歪んだ顔があれば、私は確信できた。のに、それはたぶん今となってはありえないこと。眉一つも動かすことなく、ピアスを一瞥した表情を見てちょっと泣きたくなる。いつからだっけ、君が考えてることがわからなくなったのは。
「それ何?ピアス?」
「ここに落ちてた」
唇が震える。綱吉は無表情のまま、手のひらのピアスをつまんで、ごみ箱に捨てた。
「で?」
「で、って…」
「俺が浮気してるとでも言いたいんだ」
「ちが、」
「わなくないでしょ」
「……」
「気分悪い」
首筋を這っていた指が喉元を締める。これは誰?苦しいのはたぶん呼吸のせいじゃない。薄々とは気づいてた。私が好きで愛してた綱吉はもうどこにもいないってこと。彼は変わってしまった。それが良いことなのか悪いことなのか私にはわからないけど、心のどこかで変わってないことを願ってた。あの日の君がまだどこかにいたらいい、って。
「綱吉、」
「名前だけを愛してる。それだけじゃ足りないの?」
一層力のこもった指に触れると肌が粟立った。この人は彼の死人だ。君は一人で死んでしまったのか。
「…名前は俺を愛してるんでしょ?」
そうだよ。だからそんな顔しないでよ。冷たい指をそっと重ねる。君の体温が私の体温を奪っていくのがわかった。綱吉が殺した私を愛してくれるならそれでいいんだ。