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「かわいいねぇ」




 テレビに映った子どものライオンは 、丸々とした目をカメラに向けている。 数年後には私たち人間に牙を剥き襲いかかる彼らの獰猛さは片鱗もみえない。てか、まず生き物に見えない。ぬいぐるみみたい。可愛い。私が大富豪だったら飼いたいくらいにライオンやトラが好きだ。もしかしたらネコ科全般が好きなのかもしれない。だって可愛くて、かっこよくて、どんな姿でも美しさを感じずにはいられない。プツンとテレビの画面が真っ暗になって、振り向くと敦が持っていたリモコンをソファーに投げた。




「あんなのただの獣じゃん」
「わかんないじゃん」
「わかるし」




 眉間にシワが寄る。機嫌が悪いときの彼の表情。敦って、本当わかりやすいよねーと呟くとふん、と鼻を鳴らして後ろから羽交い締めにされた。2メートルもある男がただの標準サイズの女をホールドするとどうなるかおわかりだろうか。すごく重いのだ。





「重いー。ねえ、髪くらい乾かしなよ」
「……だるい」
「眠いの?」
「ん、満月だから」




 なにそれ。しばらくすると腕の力がゆるんで、不規則な寝息が聞こえてきた。カーテンの隙間から大きな満月の光が差しこんでいる。あーあ、半裸だし髪びちょびちょだし、




「風邪ひくよー」
「んー…」
「起きた?」
「あ、ヤバい」




 何がって言おうとして口を開くのと、敦が私の首に噛みつくのと、どっちが早かっただろうか。寝ぼけてるにしたってタチが悪いんじゃないっすか、敦くん。ソファーがぎしり、と音を立てて沈む。尋常じゃないくらい痛い。かなり痛い。





「いい加減に、」
「黙っててごめん」
「は?」
「俺実はオオカミなんだぁ」





 頭がおかしくなった。私じゃなくて、敦が。いやでも私もおかしくなったのかもしんない。だってさあ、敦に耳がついてんの。ふさふさの耳。目も満月みたいに金色だし、にやりと笑って覗いた牙が見える。大きな手に爪が剥き出しで、毛だらけで、生まれて初めて殺気を感じた。私は餌なんだ。獣に食われるんだ、って。直感でわかった。でも、でも、ああこんなときに、こんなこと思っちゃうなんてやっぱり私おかしくなっちゃったかもしんない。




「あ、つし」
「…怖いでしょ」
「ここ、こわいに、決まってる、でも、」
「でも?」




 私の言葉を聞いて、敦は何も言わず唇に噛みついた。血の味がする。いよいよ目眩がしてきた。命の危機ってやつかもしんない。死因はびっくり死。なーんちゃって。…ってまじで洒落になんないわ。私の彼氏が狼男だったなんて、誰が信じてくれるだろうか。





美しい獣



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