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「アンタには割りと腹が立ちます」



何年か越しに会うなり彼は私にそう言った。時の経過は人を丸くするとよく言うが、財前の性格は年月が経ってもどうにもならなかったんだね。そういった意味合いの事を(久しぶりだから)オブラート100枚くらいで包んで言えば、鼻で笑われた。久しぶりだろうと、財前に使う気遣いは何にもなり得ませんでした。



「……財前は昔から私が気に入らないよね」
「アンタだけじゃないですわ。特別とか、勘違いせんといてくださいね」
「ツンデレ?全然デレてないけど」



あの制服を脱いで何年たっただろうか。私は仕事場の制服、財前はスーツに身を包み、すれ違うその瞬間まで、男が財前であることに気づかなかった。帰宅途中の交差点で、突然手首を捕まれたときは正直ぎょっとした。スーツの袖口から覗くその手首にあるのはリストバンドではなくシルバーの腕時計。午後6時をさしている。



「何年か振りの再会がこんなに辛辣なものとは思わなかったよ」
「先輩は老けましたね」
「うそ!」



いやいやこれは仕事帰りで疲れてるからなんだよ財前。決して老けてはないよ!だってまだ二十代だし!とどんなに言い訳じみた弁解を重ねても、余計に惨めな気持ちになるだけだったから、口を閉じる。すっぴんでも平気だったあの頃に戻りたい。老化にうちひしがれる私とは違って、財前は何だか艶っぽくなった気がする。何だろう、この差。



「結婚しました」
「財前が?!」
「ちゃうわ。謙也さん、が」



懐かしい名前のはずなのに、なぜか胸に刺さった。信号待ちをしている学生カップルが微笑ましい。羨ましかった。



「未練たらしいっすね」
「…いやー、って、何で」



財前が 知ってるの
優しい謙也を好きだったこと、友達の関係を壊したくなくて進めなかった臆病、誰にも言わずに終わった恋だった。仲のいい友達にも言ってなかった。本当に私一人だけが知っていたはずなのに。



「だからアンタには腹が立つんです」
「えっ、」
「先輩の番号変わってないですよね?」
「うん」
「今晩、電話します」
「なんで!」
「やっぱり鈍いっすわ」



ふわりと香ったのは、汗の臭いでもなくシーブリーズでもなくて、上質な香水の香りだった。唇に軽くキスされたのだと、はっきりわかったとき、彼の真っ黒な瞳に私が吸い込まれそうな錯覚を覚えた。



「アンタは俺を好きになる」
「…暗示?」
「かかるんならもっと前からしときゃ良かったんですけど」
「もっと、前から?」



青になった信号に向かう彼はにやりと不敵に微笑んで、すれ違い様にささやく。



「わかってるくせに」






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