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昼休みに呼び出されて、「好きです。付き合ってください」と名前も知らぬ女子に告られた。あーうーん…顔は悪くねーんだけどさあ、あんた誰だよ?とは言えるはずもなく適当に言葉を濁す。あいにく俺は先輩たちと違って、日常茶飯事こういうイベントに出くわさないので上手い断り方がわからない。そんなことより腹の虫で手一杯ナンデスケド。あー腹減ったー…今日はラーメン食おうと思ってたのによー



「あの、私切原くんが楽しそうにテニスしてるの見て…」



沈黙に耐えられなくなったA子(仮名)は俺への片思い歴史を語り始めた。俺こういう子苦手なんだよなあ、二つ返事で付き合ったらキスは三回目のデート、とかのタイプ?お堅い感じ?まじで思春期男子の性欲なめんなよ。彼女とかヤりてえだけで、まどろっこしいデートなんかしてる余裕なんかねーんだからな。だからってヤリマンは絶対やだけど。そういえばそんな噂をされてる妙な先輩は何故か俺に構う。しかも超気まぐれっぽいノリで構うわりにすぐどっか行く。



「げっ」
「どうしたの?」



噂をすれば影とはまさにこのことか。A子の後ろから「塩みそしょうゆ〜ラ〜メンマ〜ン」とアホな歌を口ずさみながらそのヤリマン先輩がこっちに向かってくるではないか。つーか先輩もラーメンかよ。つーかどっか行けよ。あああああ赤也発見!みたいな顔された。



「赤也発見!」
「人違いっす」
「こんなちん毛頭はお前しかいない」
「ぶっ殺しますよ」



この女ときたら口を開けば俺の神経を逆なでしてさらに紙ヤスリをかけるほど憎たらしい。下ネタに赤面するA子の純情さをちっとは見習え。つーかまじであっち行けよ。



「こんなとこで何してんの?」
「それはこっちの台詞っすよ」
「私はラーメン食いに」
「もうすぐ授業始まるっすよ」
「あーいいのいいの」



よろしくないだろ。A子は居心地が悪そうに愛想笑いをしている。



「赤也暇なの?」
「いやまじ今取り込み中なんすけど」
「え?」



ぱちくりと大きな目を瞬かせて、先輩は俺とA子を交互に見る。人気のない廊下で赤い顔した女と男がいたら普通わかるだろ。わかってくれよ頼むから。先輩はなるほどと無表情ながらも納得したようにぽん、と手を打った。嫌な予感。



「じゃあ三人でラーメン食べに行こ」



いや何でだよ。










「赤也何にする?私塩」
「味噌。あんたは?」
「…しょうゆ…」



閑散とした食堂のど真ん中に席をとり、なぜか三人で横一列に座ってラーメンをすする。先輩真ん中っておかしくない?つーかA子も断れよ、真面目そうな顔して授業サボっちゃうのかA子。そういう子なのかA子。勝手なイメージを作っておいて、勝手にぶち壊した。



「赤也」
「何すか」
「ちょっと味噌ちょうだい」
「嫌っすよ」
「塩あげるから」
「嫌」
「ケチ!何のために私があんたら誘ったと思ってんの?!」



いきなり大声をあげる先輩にびっくりする俺とA子は「何のためですか」と視線で問う。ちなみに、こいつまじめんどくせぇの意味も混じってる。



「ラーメン三種類食べてみたかったから呼んだのに!」



こけた。その隙に先輩は俺の味噌を食った。こんなときに限って動きが俊敏だ。あまつさえ「味噌イマイチ」とか言いやがるもんだから俺も先輩の塩を食ってやった。A子はというと、



「先輩、食べますか?」



としょうゆを差し出した。何て優しいんだA子。お前神か。お前の爪の垢を煎じてこの女に飲ましてやりたいくらいだ。



「しょうゆ美味い」
「塩どうですか?」
「食う?」
「ありがとうございます!いただきます」



「あ、塩もおいしい」「でしょ?」と二人は俺そっちのけで仲良しムードをつくりはじめた。もう何だってんだ。俺はグラスの水を流しこむ。



「で、あんた赤也の彼女?」
「ぶーッ!」
「汚っ」



ゴホゴホ咳き込んだ俺に先輩は携帯を向けてウケる〜と笑った。ピロリーン。マヌケなシャッター音。死ね!性病移されて死ね!



「違いますよ」



A子は泣きそうな顔をして否定をする。あーやっぱ普通に可愛い。なのに俺はA子と付き合う気にはなれない。



「切原くんには、好きな人がいるんです」
「え?そうなの?」
「はい。私、その人に勝てそうもないから」



だから、諦めます。A子はごちそうさまでした、と手を合わせ食器を返し、ポカーンと呆ける俺にバイバイと手をふった。ほんの少し泣いてた。罪悪感。



「赤也好きな人って誰?」



A子ほどの純情も恥じらいも優しさも鋭さも持ち合わせてないアンタだよ。とは言えるはずもない。




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